2 / 36
第1話
宮殿に設けられた国王の執務室はがら空きで、誰の姿も見えない。
やれやれ、とイナスは、離れに造られた国王の別宮へと足を伸ばした。
書斎、サロン、豪奢な湯殿、そして、寝室。
さすがに自ら殺害した前国王や第一王子に成り変わり采配を振るい始めた当初は、昼も夜もなく執務に専念していたナガだったが、三年目ともなると余裕が出てきたらしい。
遊び女や稚児を連れ込み、お楽しみにふけるということを覚えた。
「失礼しま~す」
内心、まったくつきあいきれねえ、と思いつつも、イナスはノックの後に寝室へ入った。
情事の最中に、片付いた仕事の報告をすることはこれまでも幾度かあった。
まったく無防備なその姿を、あえて甲冑をまとった自分の前にさらすことで、絶対的な自信を誇示するナガ。
屈強の武人でもあるナガは、魔闘士の称号も持っていた。
今この瞬間、お前に襲われようと問題ではない。
甲冑を身に着けずとも、お前ごときにに殺られるような男ではない、と暗黙のうちに笑っているのだ。
ともだちにシェアしよう!