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第10話

「任務、お疲れ様でした」  二の句が継げない。  そこにいるのは、虐待を受けた後の弱々しい人間ではなかった。  まるで凹まず、それどころか他人を労わるような言葉をかけてくる、強い少年の姿があった。  黙ってしまったイナスにリーンは怪訝そうな目を向けたが、それ以上彼が何も言ってこないことを確認すると、再び長い石段を登り始めようとした。 「待てよ」  引き止めてはみたものの、イナスの頭の中はすっかりぐちゃぐちゃに乱れていた。  酔いも手伝って、巧い言葉が思いつかない。  さっきは。  さっきはざまぁねえな、か?  さっきは大変だったな、か?  どっちも、本心だ。  唇をもごもごと動かすだけで、何も言わない時間がただ過ぎてゆく。  おとなしく待っていたリーンが、逆に問いかけてきた。 「何?」

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