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田口くん
「そうじゃねえよ。中学生にもなって肝試しだなんて、下らねえって言ってるんだ。もう俺たち中三だぞ? 遊んでる時間なんてないんじゃないのか?」
「だからこそだろ。本格的な勉強が始まる前の気合として、肝試しをやるんだ。ここでパアっとはしゃいで勉強に切り替える、その方が切り替えもスムーズに行くんじゃねえか」
呆れたような瑛斗の視線と、分かっていないというように首を振る田口くん。
それぞれの意見がぶつかり合い、互いに一歩も引かない冷戦状態となる。
この二人は何故か仲が悪く、このようにぶつかる事も多かった。
なので周りの視線もまたかというように慣れており、一瞬張りつめた糸はすぐに弛緩し、険悪ではなくむしろ日常として風景に溶け込んでいった。
「旧校舎はただでさえ立ち入り禁止だろ。わざわざ危険を冒さず、はしゃぎたいだけならカラオケでも焼肉でもどこでも良いじゃねえか」
「ふん、そんなの面白みがないだろう。やっぱりお前は、怖いだけなんだな。先生に見つかるのも肝試しも、怖いからそんな否定してくるんだろ。男なのに情けない、そんなんじゃ好きな奴も守れないぞ」
「単に危ないって言ってるんだ。お化けじゃなくても旧校舎には不吉な噂があるだろ。クラスを巻き込んでわざわざそんな危険な場所に赴くことない、行くなら一人で行ったらどうだ。お前こそ、怖いんじゃないのか?」
「行かないのなら怖いと同義だろ。結局お前の言っている事は机上の空論、怖くないと証明するには参加することだな」
腕を組み胸を張る田口くんを見て、くっ、と瑛斗が歯を食いしばるのが気配で分かった。
そしてそっと、僕の様子を瑛斗は伺う。
「いいよ、瑛斗。参加しても」
「だけど……」
「誰かがいれば、大丈夫だから」
安心させるように、僕は瑛斗に微笑んだ。そんな僕らの様子を見て、田口くんは首を傾げる。
「もしかして、怖がっているのは瀧川の方だったのか?」
「…………」
にやり、と田口君が奇妙な笑みを零した。そして勝ち誇ったようなに、腰に手を当てる。
「何だ、それなら早く言えばよかったものを。瀧川の事は俺が守る、安心しな」
「何言ってるんだ、いつも一緒に居るのは俺だ。俺が守るに決まってるだろ」
そしてまた、視線のぶつかり合いが始まった。
呆れている周りにも気づかずに、参加するかしないかの話から僕を誰が守るかの話にすり替わってる事に当人らは疑問を抱かず、先生が来るまでその小競り合いは続いたのだった。
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