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お守り

「この野郎、細工しやがったな」 「何の事だ?」 「どうせ紫乃とペアになれるように細工したんだろ。お前と紫乃がペアだなんて、そうとしか考えられねえ」 「証拠でもあるのか? 証拠もないのにそんなこと言ったら、ただの濡れ衣だぞ?」  その勝ち誇った笑みが何よりの証拠だよ、と言いながら、瑛斗は僕の肩を引き寄せ田口くんに背を向け、内緒話でもするように声を潜めた。 「紫乃、気を付けろよ。田口には絶対に悟られるな、そして何かあったらすぐさま逃げろ。ここはお前にとって危険な場所、それを肝に銘じろよ」 「そんなの、僕が一番わかっているよ」  瑛斗から目を逸らし、辺りを見渡しながら僕は瑛斗に返した。  けれど不穏な存在と目が合う前に再び瑛斗に視線を戻し、「でも」と続ける。 「このお守りがあるから、大丈夫」  そう微笑みながら、僕はいつも首から下げているそれを服の上からそっと触れた。  恐怖に荒立っていた心が触れると同時に静まっていき、深呼吸をして『大丈夫、大丈夫』と言い聞かせる。  そうすると不思議なほど落ち着いてきて、長く息を吐くと「ね?」と瑛斗を見上げた。 「なら、いいけど」  訝し気になりながら瑛斗は頷き、背後を振り返りトップバッターの二人が行くのを見送る。  田口くんはもう僕らの近くには居らず、先頭でルール説明をしていた。 「なあ、紫乃。この肝試しは安全か? それとも、危険か?」  そんな彼らの様子を眺めながら、瑛斗がポツリと呟く。 「正直、分からない。ここは意外に質の悪い者が多いから、警戒しとくに越したことは無いと思う」 「そうか」  前方を見つめたまま、瑛斗に返した。  僕の言葉に彼は頷き、眉間に皴を寄せ周囲を見渡す。  完全に、お楽しみモードのクラスメイト。  ここがどれだけ危険な場所かもわからずに、笑い合い、冗談を言い合い、小突き合う。  見た者にしか分からない恐怖、聞いてきたからこそ分かる恐怖というものがあるけれど、正しく僕らがその状態で、周りの人はそれが実在するなんて微塵も思ってはいない。  もっと緊張感を持てだとか、気を引き締めろだとかは、彼らには通じない。  この場の恐怖は、僕らにしか分からないものだ。 「頼城くん、何番だった?」 「黄木……三番だ。お前は?」 「私も。やっぱり私たち、何か縁があるみたいね」  皆の様子を見渡していた僕らに、クラスメイトの一人が近寄ってきた。  黄木冬華。  小学一年から瑛斗とずっと同じクラスの、腐れ縁。  特別仲が良いというわけでもないが、何かあったら喋る程度の彼女の性格は、サバサバ女子と言ったところか。  スポーツが得意そうに見えるベリーショートの髪と細めの瞳が、僕を捉え手を振ってきたのでぺこりと頭を下げた。  ちなみに僕と瑛斗が同じクラスになったのは、小学三年生の時と今年の計二つ。  それでも登下校を共にしていた僕らは離れることなく、皆から仲良し認定されていた。

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