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霊との接触
「あ、あはは。たぶん、もう少し先にあるんだな。進むぞ、瀧川」
「……うん」
不安を取り繕い陽気に笑うが、声が震えているし、何なら手と足が同時に出ているのが暗闇でも分かった。
そして辺りを見渡し、『クスクス』という声が僕に向かって投げられているのも。
(やっぱり)
そんな彼の様子を見ながら、僕は足を止めた。
気づかずに進む田口くんとは逆方向に進み、三階への階段を上がる。
そして十分に田口くんから離れた所で、口を開いた。
「僕に、何の用?」
と。
震える手を背後に隠し、暗闇の中で、月明かりだけを頼りにし、僕は幽霊と対面する。
『何の用だなんて、無粋なこと聞くのね。私の用は貴方自身、貴方の垂れ流しにしている、それが欲しいの』
現れたのは、少し年上な腰まである髪を緩く結んだお姉さんだった。
いや、この学校の前の制服を着ているということは、年上に見えるだけで実際には中学生なのかもしれない。
同い年か、それとも年下か。
それくらいに亡くなっただろう女の子は、僕を見て首に手を回した。
『貴方、他の人と違うのね。私たちが大好きで、たまらない匂いをしているわ。これから生きるのが大変そうな匂い。きっと、早くして私たちに食われるか、監視を付けられるかの人生を送るのね。可愛そうに』
「……何の、話?」
『ああでも安心して頂戴。私は齧る程度しかしないから。ちょっとその霊力、分け与えなさいね』
話も聞かずに、その女の子が僕の髪をそっと撫でる。
そしておでこを近づけてきて、おでこ同士が触れ合い、恐怖で動けない僕を他所に瞬く間に僕の中の何かが吸われていった。
「……っつ!」
『抵抗しても無駄よ。私は霊体。貴方は私に、触れられない』
そして漸く何をされているのか理解した頭で彼女を振り払おうと手を伸ばすけれど、その言葉通りに、僕は彼女に触れられなかった。
手だけではなく、全身がカタカタと震え出す。
震える手で服の上からお守りを握りしめ、目をギュッと瞑った。
『……貴方』
そうして、どれくらいが過ぎただろうか。
数分、いやもしかしたら数秒なのかもしれない。
驚く女の子の声にそっと目を開けると、声と同様驚きに目を見開いている女の子の姿があった。
そして唇を噛みしめたかと思うと、瞬く間に彼女は煙のように消えていく。
「……え?」
一体、何だったのだろうか。
彼女の目的は、彼女が言っていた通り僕の霊力なのだろう。
僕は生まれつき、霊の見える体質だ。
つまりは、それなりに霊力を持っているはずで。
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