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助けて、くれたのは
「…………」
クラリと。
考え事をしている間に、僕の体は意図せず傾いた。
揺れる視界の中で、抵抗虚しく膝をつく。
僕は霊と、あんなに近づいたことがなかった。
きっとこの現象は僕のせいだ、だから田口くんを巻き込んではいけない、そう思って一人になった。
霊が見えるくせに怖くて避け続けて、あまり近寄ってこない人の多い所を積極的に通ったり、瑛斗と常に一緒に居ることで霊から気を逸らしたり。
避けていたから、僕は分からなかった。
悪霊の対処法も、徐々に霊の集まっくる気配に、こういう時どうしたら良いのかも。
『貴方、おいしそうな匂いがするわね?』
さっきの女の子ではない、別の女性がこちらに近づいてくる。
それは制服ではなく完全に私服、長い髪を左に垂れ流し、白のスカートと薄ピンクのシャツを着た二十代くらいの女性が、僕の近くに浮いていた。
『もしかして、噂の子か? 随分と、可愛らしかったんだな』
ジャージ姿のラフな男が、頭上から語り掛ける。
噂というのが気になったが、今はそれどころではなかった。
男の他にも、男の子、女の子、女性、男性、様々な霊が僕に近づいてきていた。
『怯えちゃって、可愛そうに。でも、貴方も悪いのよ。そんな体質に生まれてしまった、自分自身を恨むことね』
女性がそう話しながら、どんどん距離を詰めてくるのが気配で分かった。
怖さが頂点に達する。
もう、気絶してしまいそうだ。
ふらふらの体は立ち上がる事さえできず、霊に囲われ、ただただ、その時を待つしかない。
「何をしている」
そんな時。
ある、声がかかった。
また新たな霊かとも思ったが、それは妙に威厳に満ち、冷酷で、霊に向かって発せられていた。
「消えろ」
彼の一声により、霊が霧散する。
先程までの光景が嘘のように、そこには霊が一人たりとも残っておらず、辺りにはその男の子しか残っていなかった。
「大丈夫か? 怖かっただろう、すぐに来てあげられなくてごめんな」
彼が僕に近づき、僕の背後から前に回る。
何故か、彼の声を聞いたことがあるような気がした。
よく見る夢が蘇る。
そんなはずない、そう思いながら顔を上げ、入った視界に驚いた。
「……紫乃?」
それは、彼も同様だったらしい。
驚きに目を丸くした瞳で互いに互いを見つめる。
彼は、実在していたんだ。
僕の作り出した妄想ではなく、現実に存在している人だった。
そして彼が名前を呼んだということは、彼は僕の事を知っているという事。
僕の記憶にはないが、彼の記憶には僕が存在しているという事。
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