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進路

「締め切りはテスト最終日までだからな~。提出忘れるなよー」  波乱の肝試しの日から数日が過ぎ、一学期期末テストも二週間前に差し迫ったある日。  関谷くんから受け取ったプリントを後ろの人に渡し、僕はその紙に目を落とした。 『進路希望調査』と書かれてあるそれを見て、僕はそっと息をつく。  そして現実逃避するように、窓の外に視線を移した。 「紫乃は進路、決まっているか?」 「ううん、まだ。瑛斗は?」 「俺も。できれば紫乃と同じ学校行きたいんだけどな~。紫乃頭いいし、頑張んないとな」  進路の話を避けていた僕らの話題は、自然と今朝配られた進路希望調査の話になっていた。  昼休み、関谷くんの席に座った瑛斗は、背もたれに顎を乗せう~んと唸る。 「ちなみに、候補は?」 「雷鳴高校か、塀禮高校、かな?」  雷鳴高校はここから近く、僕らの中学から三十分もしない所にある。  塀禮高校は少し遠く、電車通学になるだろうが通えないほど遠くにあるというわけではなかった。  学力的には塀禮高校の方が上、それに生徒も活気があり、勉強にも部活にも自分のやりたいことに打ち込める環境が整えられているそこは、人気が高かった。  この学校の生徒の多くは、ほとんどが雷鳴高校を目指し、そして少数は塀禮高校を目指し、あとは他の高校を目指す、という風になっていた。  だから、僕の回答を予測できたはずの瑛斗は、背もたれに今度は額をこすりつける。 「だよなぁ。でも第一候補は塀禮高校、だろ?」 「うん……多分」 「曖昧だな。悩んでるのか?」 「ちょっとね」  苦笑しながら瑛斗に返した。  実際、僕は悩んでいた。  第一志望は今回も塀禮高校で出すつもりだ、けれど僕の中でその高校に行きたいという思いが、宿っていなかった。  入学したら、楽しそうだとは思う。  理想の高校生活が送れそうだとも。  だがその高校に行く意味、一生懸命になれる理由が見つけられなくて、これならそこそこの努力で行ける雷鳴高校でも変わらないのではないか、と思い始めていた。 「紫乃が雷鳴高校に行くつもりなら、俺は嬉しいんだけどな。雷鳴なら何とか、俺でも行けそうだし」 「別に、僕と一緒の高校に行かなくてもいいんだよ?」 「未だに一人で行動するのを怖がってるやつに言われたくねえよ。そりゃ、いつまでも一緒って訳にも行かないだろうけどさ。せめて高校は一緒のとこ行こうぜ」 「……うん……そう、だね」  諭すように頭に手を置いてくる瑛斗に、僕は微妙な顔になった。  僕は、どれほど瑛斗の負担になっているのだろう。  優しい瑛斗は僕の事をそんな風に言わない、思っていないだろうけれど、やはり行動の幅を縮めている事に罪悪感を感じざるを得なかった。  僕のせいで部活も出来ないし、僕以外と遊びにも行けやしない。  お世話係を押し付けられている瑛斗は、それを苦とも思わずに無常の優しさを注いでしまう。  僕が一人で、いれないせいで。 「……俺はただ、お前と一緒に居たいだけなんだけどな」 「え?」 「いや、何でもない」  呟いた声は言葉としては耳に入らず、聞き返しても誤魔化されてしまった。  何だったのか気になるものの言う気は無いようで、大事な事ではなかったのだろうと僕も聞き流す。  テスト終了後には三者面談も控えており、皆もぼちぼちと進路が決まってきている者も多い。  うかうかしてはいられない、けれど簡単にも決められない。  そんな悩んでいる僕に第三の選択肢が与えられるとは、この時の僕は思ってもみなかった。

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