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不思議な現象

「お前は、あいつの事が好きなのか?」 「へ?」 「いっつも、赤くなってるだろ。……いや、その反応でもう、答えは出てるようなものか」  呟いて、勝手に自己完結する瑛斗。それに対して、慌てて僕は両手を振った。 「そ、そんなんじゃないよ! 確かに、赤くなっちゃうけど……それは、白羽くんがいつも直球だからで……」 「じゃあ紫乃は、好きじゃない?」 「うん。恋愛感情では、好きじゃない……よ」  いつも白羽くんといる時に感じている胸の高鳴りを無視して、僕はかぶりを振った。  彼はきっと、勘違いをしている。  白羽くんは彼の知っている僕を好きなだけで、その感情がそのまま僕に向けられているだけなのだ。  だからその想いに応えでもしたら、僕が苦しむことになる。  初めから苦しむと分かっている道を、喜んで進む人などいない。  その覚悟が決められそうにない僕は、彼の想いに応える事などないのだろう。  互いに幸せとなる道は、そうして彼の想いを突っぱねるか、それとも――彼の記憶を、思い出すか。  けれど僕は記憶喪失というわけではないのだ。  五歳までの記憶がない事と、年に一日記憶がない日がある以外は、いたって普通に過ごしてきた。  彼の口ぶりは最近まで会ったことがある様子で、だから五歳までのは関係がないだろう。  それにこれは幼いころ故であり、記憶喪失とも違う気がするのだ。  なのできっと、彼の知っている僕が本当に僕であるならば……記憶のない一日、それに関わっているのだろう。  記憶喪失ともまた違うこの現象。  その正体に名前を付けたくなくて、僕は考えている事にそっと蓋をした。 「――なら!」  ふいに瑛斗に再び引き寄せられ、白羽くんとは反対、右の頬に温かな感触が広がった。 「俺の事も……ちょっとは、見ろよ」  見たことのない切ない顔、眉を歪ませた彼は苦しそうで……何故そんな表情をしているのか分からなくて、こちらも苦しくなった。  見ろというのは、どういう意味なのだろう。  いつでも共にいた瑛斗、それは互いの存在が自然すぎて、当たり前に隣にいた。  感謝の気持ちはいつでもあった。  僕がいることで行動の範囲を狭ませている自覚はあった。  けれど感謝の気持ちを示したことは……あまり、なかった。

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