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サボり

 給食の時間が終わってすぐ。まだ教室に人の多い時間帯にもかかわらず、教室を出てちゃっかり鞄も持ち、靴箱に向かう青年がいた。  その青年をこっそりと後ろから付いてきた男が、彼を呼び止める。 「おい真斗! 帰るのか?」 「ああ」 「最近金曜に早く帰るな。何か案件でも抱えてるのか?」 「そういう訳じゃ……いや、そんな感じか」 「相変わらず、大変だな」  喋りかける声を気にも留めず靴箱で靴を履き替える真斗の所に、男でありながら赤茶色の髪を一本結びにした男、水瀬晃が近づいてきた。  そして彼も靴を履き替え始めた事に、真斗は眉を顰めさせる。 「お前まで早退するのか? ただでさえサボり魔の癖に、このままじゃどの高校にも合格できないぞ」 「俺と同じくらいサボる奴には言われたくねえな」 「俺のは仕方のない事だ、でもお前は自分の感情でサボってるだろ。そんなお前にとやかく言われる筋合いはないな」 「あ、そんなこと言うともう、手伝ってやらねえぞ」 「いつも手伝えとは言ってないだろうが」  そんな言い合いをしながらも、まだ昼休みの喧騒の中を二人は鞄を抱えながら学校を出た。 「で、どこに向かってるんだ?」 「本当に付いてくる気なのか?」 「もちろん。お前、もうかれこれ一か月以上金曜に早退してるだろ。そんな長期間かかる仕事、ちょっと気になるじゃねえか」  どうやら、晃は真斗を心配したわけではなく、自分の興味本位で真斗に付いてくるようだ。  まあ始めから晃の様子から分かっていたことだが、はっきりと口にして言った台詞に真斗は立ち止まった。  不審に思いながらも真斗に合わせて晃は止まり、振り返る。 「今回はダメだ。霊がたくさんいるんだ、お前でも危険かもしれない」 「そんなにヤバいやつなのか?」 「ああ」  神妙に頷く真斗。いつもより真面目なその様を、晃は観察する。  だがじっと数秒そのままでいた次の瞬間、晃はふっと真斗の様子を笑い飛ばした。 「毎回、嬉しそうな顔して早退してた奴が言う台詞じゃねえな。ありゃ好きな奴に会いに行く顔だぜ? 何だ、遂に居場所を突き止めたのか?」  からかい口調で言ってきた晃に、やっぱり隠せなかったか、とため息をつき、真斗は再び足を動かした。 「ああ、そうだ。だからお前にはいられたくない」 「いい加減写真くらい見せろよ。お前をそんな骨抜きにする奴の顔が気になって、俺はぐっすり寝られやしねえ」 「じゃあ寝なければいい。勉強しない頭に快眠は必要ないだろ」  軽口を言う真斗に、頭に両手を回しながら歩く晃は真斗を見やり、にやりと笑った。 「とか言って本当は、写真持ってなかったりして」 「失礼な、持ってるよ。……隠し撮りだけど」 「何だよ、撮らせてもらえなかったのか?」 「怒るんだよ。『撮ったら嫌いになるから』って子供っぽい事言うの。そんで次の瞬間には、抱きしめた腕の中で頬赤くしてるんだぞ? 可愛いったらないよな」  その時の様子を思い出し、真斗は手で口を覆い含み笑いをした。

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