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隣町へ

「何だ、笑えば良いのか?」 「やめろ、俺でも怖い」  何か恐ろしい事を企んでいそうなニヒルな笑みを浮かべる晃に、真斗は即口を歪めた。  見えてきた駅前のトイレの前で立ち止まり、真斗は腕を組む。 「で、本当に付いてくるんだな?」 「ああ、もちろん」 「そうか」  先程は絶対に付いてくるなという雰囲気を醸し出していたのにも関わらず、今度はあっさり引いた真斗に、晃は目を見開いた。 「何だ、やけに呆気ないな。もっと反対して、俺を振り切ると思ったんだけどな」 「今回は、正直お前の手を借りる事も考えていたんだ。さっき言ったやばいってのは、本当だからな」 「なるほど、お前がそう言う位だ、相当ヤバそうだな」  その危険性を分かっているのかいないのか、軽く晃は鼻を鳴らした。  そして真斗に付いてトイレの個室に入り、素早く着替えを済ませる。  真斗と晃がこうして抜け出すことは存外よくある、そして最近の真斗の様子から今日も抜け出すことを予測しついていく算段を立てていたのだろう、ちゃっかりと着替えまで持っていた晃と共に、紫乃のいる隣町に行くために、着替えを済ませた二人は電車に乗った。 「隣町か、意外に近かったんだな」 「そうだな。こんなに近いんだったら、もっと会いに行っていれば良かった。分かっていれば今のように毎週会いに行ったのにな」 「相変わらず、お前はそいつに甘いな」 「当たり前だ、紫乃と会えない日は俺にとって苦痛でしかないからな」  電車を降り、真斗に付いて晃も歩を進める。  平日の午後は人も少なく、静かで伸びやかな時間が流れる。  青い空を見ているとまるで休日のように感じられ、自分たちがサボりという悪い事をしているわけではなく、単に隣町に遊びに来たような気持ちになりながら、住宅街を真斗たちは歩いていた。 「でも、紫乃と会っても驚くなよ?」 「いつも言っているように可愛いからか? 大丈夫だ、男でどんなに可憐でも、俺は心積もりは出来てるからな、驚かない」 「いや、そういう訳じゃない。紫乃と会っても絶対に動揺を表に出すな、それだけ約束しろ」 「何だ、そのはっきりしない言い方は……まあいい、とりあえず分かった」  納得していなさそうながらも晃は頷き、それに満足したように真斗も頷いた。  車の通りも少なく人も全くいない通りを歩いて、早十五分といったところだろうか。 「あれだ」  ふいに真斗は立ち止まり、ある建物を指さした。 「なるほど。いかにも、霊がいそうな……というか、もうすでに大量に確認できるんだが……大丈夫か、あれ」  見えてきたその旧校舎に、晃は顔を引きつらせた。

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