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旧校舎
普通の人の視界に映っているのは、何年も放置された廃れた旧校舎の姿だろう。
だが二人の視界に映るそれは、窓や校庭、空にまで霊が浮かび上がり、黒く淀んだ靄が見える程までに負のものが集まった姿だった。
「あんなになってるのなんて見たことねえぞ……これ、応援呼んだ方が良いんじゃないか?」
「いや、被害が出てるわけでもなく、被害が出そうというわけでもないんだ。そんな状態で、応援は呼べないだろ」
「え、こんなに霊がいるのに被害がないのか? それはおかしくないか?」
「そうだな、俺もそう思う」
晃の言葉に、真斗も素直に頷いた。
正直、これは正しく奇跡だった。
ここまで霊が一か所に集まっているのに奇妙な噂があるだけで人に影響は出ておらず、集まった悪霊も人に手を出しそうな気配すら出していない。
真斗も、最初この状況を見た時に応援を呼ぶことはすぐに考えた。
だが、調べてみて出てきたこの現象に、まずは様子見しておくことにしたのだ。
この淀んだ空気はお払いが必要だ、けれどそれをする前にまずは霊を散らせなくてはならない。
そしてそのためにも、霊がここまで集まっている原因を解決しなければならない。
「で、何でここまで霊が集まってるんだ?」
「紫乃の霊力が垂れ流しになっていてな。それが原因だろう」
「なるほどな。そういや、大量の霊力を持っていると言っていたか。でも、ここまでおびき寄せるほどまでとはな。成長期に入って、今まで抑え込まれていたものが溢れだしたパターンか?」
「ああ、そうだ」
この不思議な現象を感嘆混じりに眺めていた晃の問いに、真斗も旧校舎に視線をやったまま頷いた。
生まれつき霊力を持っている子供には、すぐに霊力を抑える封具と、霊をおびき寄せないためのお守りを与えることが推奨されていた。
だが紫乃は特殊で、霊をおびき寄せないためのお守りはいつでも首から下げているが、封具は付けておらず自ら霊力の封印を行っていた。
しかし、その封印も増える霊力に抑えきれなくなってきたのだろう。
だから今、何も知らない紫乃には霊力を自ら抑え込む術が必要であった。
「で、今すべきことは?」
「この現象を起こしている霊の特定、および目的の把握だ」
「っつーことは、まとめ上げてる奴がいるってことか?」
「ああ。明らかに、一人の霊によってこの現象は作り出されている」
夏も本格的に近づき強くなり始めている日差しを避けるため、真斗は日陰に場所を移動した。
それを追い晃も隣に並び、アスファルトに背を向け霊にバレないようにそっと旧校舎の様子を伺い見ながら会話する。
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