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二つの人格

「付き合ってないよ」  やがて、苦笑交じりに瞳を伏せた真斗が、晃に言った。 「え、でもお前……」 「俺の片思い。紫乃が大好きなのは、今も昔も変わらないけどな」  愛おしそうに紫乃の頭を撫でる真斗を見て、晃は眉を顰めた。  そして徐に真斗の腕を取ると、「ちょっとこっち来い」と表情険しく連れ出す。 「何だ?」 「今説明しろ。お前の惚気話をいつも俺は聞いてきたんだ、話を聞く権利くらいあるだろ」  ファミレスの外の路地裏に行くと、紫乃に会ってからの疑問が爆発したのか晃は真斗を睨みつける。  元々晃には話すつもりでいた、だから真斗も、躊躇わず紫乃について口を開いた。 「今、紫乃は……俺が知っている紫乃じゃないんだ」 「どういうことだ?」 「多分、紫乃の体には二人の人格がいる。一人は俺が知ってる紫乃。いっつもツンとしていて、たまに甘える可愛いやつ。そんで今いる紫乃が、主な人格なんだろうな。すぐに顔を赤くして、恥じらいつつ俯く愛くるしいやつ。俺が付き合ってるのは今いない紫乃で、今いる紫乃とは付き合ってない、そういうことだよ」  俯きながら自嘲気味な笑みを零す真斗を見て、晃は目を瞬かせた。  そして湧き上がる感情を抑えるように拳を握ると、静かに真斗に問う。 「お前は、それを……知ってたのか?」 「いや、最近知った」 「それでも、お前はあいつの事を好きだと言うのか?」 「そうだ」  断言した真斗の襟を、次の瞬間晃は掴んだ。 「俺は、紫乃という少年の事をお前の話でしか知らない。お前の友達を長年やっている俺は、どうしてもお前の味方になる。そんな俺から言えることは……そんな恋愛、やめておけ。お前が不幸になるだけだぞ」  元々人に恐れられる顔の晃からの凄み。  それに怯まず、真斗は晃の腕を掴んだ。 「俺は、長年あいつに恋してるんだ。その積もりに積もった感情を、今更捨てられると思うのか?」 「それこそ、長年かけて諦めればいい。俺たちはまだ中学生、世間でも子供と言われる年齢だ。そんな歳に恋した記憶なんて、すぐに捨てされる」 「ダメだよ、それじゃ。俺の感情はそんな簡単なものじゃない。時間では解決できないんだ。諦めるくらいなら、俺はあいつにずっと恋し続ける方がましだ。それくらい、俺は本気なんだよ。あいつに」  分かったら離せ、というように手に力を込めた真斗の意図を読み取り、晃は掴んでいた襟を離した。  そして頭を抱え、しゃがみこむ。

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