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表へ

――ジリリリリリリ。  耳障りな音を響かせる目覚ましに導かれ、僕の意識は浮上した。  見慣れたはずの天井。  見慣れたはずの部屋の装い、配置、色調。  それでも見慣れない視界、自由に動く体。 「……っつ!」  そこで、僕はガバリと身を起こした。  手を握ったり開いたりを繰り返して、意思通りに動くことを確認する。  そしてそれらが指示した通りに動かせると悟ると、深いため息を零した。  時計に表示されている日にちを確認すると、マサ……白羽真斗と、出かける日にちを示していて。 「バカ……」  僕は一人、呟いた。  それは、一年に一回だけの奇跡のはずだった。  主導権を握っているあの子への申し訳なさと、愛しい人に会える唯一の日に胸躍らせる、奇跡とも言える一日。  けれども彼に僕の事がバレた今、こうしていとも容易く、僕という人格は表へ出る事を許される。 「マサ」  待ち合わせの家の近くにあるバス停にて。  強い日差しを手でシャットアウトしながら立っていたマサに、僕は声を掛けた。 『マサ』という言葉に驚いたのか、それとも声の調子に驚いたのか。  一瞬固まったマサは、ロボットのような動きでこちらにゆっくりと目線を向けた。 「紫、乃……?」 「そうだよ、マサ」  再度僕は『マサ』と呼び掛けた。  それは僕だけが呼んでいる、僕が僕たりえる証。  僕がいつものあの子ではなく、マサの知っている僕であると一瞬で見分けるもの。  それに気づいたマサは、すぐに「紫乃!」と言って飛び付こうとした。  けれどもここは車通りさえ滅多にないものの公衆の面前だ。  なのでそれを腕を前に出すことで防いで、「こんな所でやめてよ」と非難を浴びせる。  だがマサは止まらず、出した手をそのまま掴んだ。 「大丈夫だ。紫乃なら、女の子と間違われるだろうから」 「女の子でもダメでしょ! ……それにそういう事言うの、いっつも禁句って言ってなかった?」 「女の子より、紫乃は可愛いよ」 「……嬉しくない」 「好きだ、紫乃」 「ちょ、ちょっとマサ!」  油断も隙もあったものではない。  マサに捕まれていた手を引っ張られ、素早く僕は彼の腕の中に閉じ込められた。  抵抗する暇も与えられず、唇をマサに塞がれる。 「紫乃……っ、紫乃。会いたかった、紫乃……」 「……んっ、ふぁ……マ、マサ……いきなり……」 「悪い、止められそうもない」 「ん、んうぅ」  薄く開いた唇から舌が侵入して、その言葉通り余裕のなさそうなマサは性急に僕の舌と絡ませる。  止められない、なんて僕も同じだ。  抵抗なんて形だけ、背中に手を回したい気持ちを何とか抑えて、体の前でギュッと握りしめた。  それは久々に感じる快感に、くたりと体をマサに預ける所まで続けられた。

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