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守る
「やりすぎたな」
「ホントだよ、全く」
切れかけた息を整えながら悪態を零す。
見上げながら睨みつけても、愛おしいというように目を細められるだけ。
そんな時に通りかかる車の音に、僕は腕で顔を隠された。
「紫乃が『もう会わない』なんて言うから、この先もずっと……会えないのかと思ってた。だから、爆発した」
「会わないつもりだったよ。もう、表に出てこないつもりだった。……でも、あの子が……」
「表の紫乃の事か?」
「うん。あの子が僕を、無理やり引きずり出した。多分霊力を司ってるのが僕だから、『幽霊科』の話を聞くのは僕の方が良いって判断したんじゃないかな」
目を閉じてあの子の存在を確かめながら僕はそう言った。
今きっと、あの子はいつも僕がいるあの部屋でこの会話を聞いているはずだ。
僕が表に出ている時には眠っていたあの子は、僕の存在を自覚すると起きる事を覚えた。
この体の視界を映すモニターを見ているはずの彼が、どう思っているのか心配になった。
だって僕は、あの子に隠れて勝手にキスをしてきた。
ファーストキスなんてそれこそ幼い時、幾度ものキスをこの体で体験してきた。
それをあの子は、どう思っているのだろう。
先程の止められなかった行為が、今になってじわじわと後悔になり頭をもたげる。
「もしかしてこの印は、お前が表に出ている時にしか現れないのか?」
「そうだよ」
「だから、もう表には出ないって、俺にも会わないって、そう言ったのか?」
「うん」
マサが僕の服を引っ張って、鎖骨の下辺りにある痣のような印を上からなぞった。
それは僕らにとってはとても重要なもので、マサからしたら喉から手が出るほど欲しいだろうもの。
けれども悔しそうな表情もせずにただ目を瞑ったマサは、寂しそうな目を僕に向けた。
「お前は俺が守るって言っただろ?」
「……僕よりも弱いくせに、何言ってんの」
「お前の力さえ借りられれば、俺は誰よりも強いよ」
「僕がいないとダメなくせに」
「そうだよ。お前がいないと俺はダメなんだ。なのに勝手に、いなくなろうとするな」
マサの手の力が強くなった。
それはマサの前から消えようとしていた僕を叱咤するように、はたまた縋るように。
好きの気持ちは同じだけある、だからマサが感じる想いが正確に流れてきて切ない気持ちが広がった。
それでも『会わない』と下した判断は間違ってないと思ってるし、『守る』という言葉に嘘はないだろうけれど守れるとも思えない。
それに――。
「幽霊科だなんて……僕が出て、それでも守れるなんて言い切れるの?」
「それでもお前は入学しなきゃいけない。分かってるんだろ? 霊力を封じてきたお前には」
どうやら、マサはあの事にも気が付いているようだった。
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