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サクア
「さて。じゃあ、君の今の状況について整理しようか」
表情を引き締めそう言った三谷原さんはきっと、僕らが話したい本当の事を理解してくれている。
僕を見て、それからすぐに僕が以前会った僕とは違う事に気がついた三谷原さん。
『幽霊科』について聞きに来ただけではなく、僕が陥っている状況から入学するべきか否かを的確に判断した方が良いと悟ったのだろう。
それが分かった僕らも、互いに顔を見合わせ頷いた。
「……といっても、見ただけでは複雑だということしか分からない。説明してもらえないかな?」
「分かりました」
神妙に僕は頷いた。
そして、注目の集まる中口を開く。
自身が何故、二重人格になったかについて。
「単純な話です。僕が五歳の頃霊力を暴走させて、それを抑え込むために自分の中に閉じこもった。そして空っぽの体に宿ったのが、今主導権を握っているあの子、それだけの話です」
僕の言葉を聞いてマサが、拳を握りしめ俯いた。
あの場には、マサもいた。
あの日から年に一回、それも僕として会っていたから今まで気づかなかっただろうその現象に、また自分のせいでと罪悪感を募らせているのだろう。
そんなマサの手を掴んで、力を込めた。
ハッとなったマサが漸くこちらを見てくれたことで、僕は話しを続けようとする。
――けれど。
「なんだ!?」
突如鳴り響く地響き、揺れる地面。
地震かと一瞬過ったそれは、気配を探ったことにより最悪な事態を招いていると悟った。
「これは……」
僕らの顔が、一気に青ざめる。
家に張られている結界の外に、大量の霊が押し寄せていた。
それも結界を破ろうと体当たりを繰り返し、奇声を上げる。
こんなことは滅多に起こらない、そんな事態を上手く呑み込めていないだろう三谷原さんはハッとなりこちらを見て、呆然としたまま僕に尋ねた。
「……まさか、君は……サクア、なのかい?」
「……はい」
それに対して、気まずくなって僕は顔を逸らしながら頷いた。
サクア。
それは、特殊な体質を有している者を指す言葉である。
その体質というのが、霊に好かれる霊力を持っている事。
霊力を取り入れながらこの世に留まっている霊たちにとって、美味な霊力というのは貴重である。
そしてそれは美味しいだけではなく、その霊の力を強くするというのだから、サクアは霊から狙われる存在として霊媒師から保護対象とされていた。
でもそれを、僕が抑えていた。
長年を掛けてサクアとしての体質を抑え込む方法を生み出した僕は、溢れ出ている霊力は通常の、そこらにいる人と変わらないものとなっていた。
だからあの子が表にいる時に溢れている霊力には、サクアとしての力はない……はずだった。
そう、最近までは。
僕の特殊な体質はまだあった。
それは、霊力が無限に増え続ける事。
加えて最近は思春期という期間にも入ったせいか、その量というのに制御が追い付けておらず。
あの子が表にいる時にも、サクアとしての霊力が溢れている事が多々あったのだ。
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