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補充

「これは……まずいね。サクアなんて滅多にお目にかかれないから、油断していた。ここはサクアには対応していない。この練習場にも、そしてこの家自体にも結界は張られているから、当分は持ちこたえるだろうが……とりあえず応援を呼ぼう。ちょっとここで待っていてくれるかな」 「……はい」  油断していたのは、僕の方だ。  自身がサクアであることを自覚しておきながら、それを安易にこの空間に溢れださせてしまった。  結界というのがサクアにも対応しているものだと、勝手にそう勘違いしてしまった。  出したものは元には戻せない、そして外に出そうにも霊を強くさせてしまうためそれも叶わない。  八方塞がりなこの状況を打破すべく階段を上がる三谷原さんを見送った僕に、マサが頭に手を乗せた。 「この体質は生まれつき、お前のせいじゃないんだ。だからそんな、深刻そうな顔をするな」 「そうは言ったって……この状況は僕が引き起こしたんだ、それにもしかしたら、結界を破られれば、霊に乗っ取られる可能性だってあるんだよ? 呑気になんて、構えてられないよ」  それに、すぐそばまで霊が迫っているのだ。  幽霊恐怖症は僕も同じ、いや、僕の方があの子よりも酷い。  ガタガタと既に震えている手を、マサの手が覆った。 「言っただろ? お前は、俺が守るって。だから……」  マサの指が、僕の唇をなぞる。  言わんとしている事を理解した僕は、目を閉じた。  そんな僕に先程よりも優しく、マサの唇が触れてくる。  そして同時に、僕の中の霊力が、マサの方へと流れだす。  それをマサが体に取り込み、自身の霊力として蓄積させていく。  サクアとしての霊力を有するのはその体質の持ち主だけ、なのでマサに流れていった霊力はマサの霊力と混ざり、サクアとしての力は失われる。  触れ合っただけの唇はややして離れ、と同時に三谷原さんが駆け下りてきた。 「白羽くん、力を貸してくれるかな? 応援は呼んだから、この結界を持ち応えるために協力して欲しいんだ」 「分かりました、今行きます」 「……マサ」 「大丈夫だから」  ここは言わば、二重の結界で覆われている。  その外側に行くマサを追いかける事を許されず、『ここで待っていて』と目線で諭された。  このただただ味わう恐怖の心を紛らわせるために側にいて欲しかった、けれども『守る』と覚悟を決めたマサの邪魔をしたくもなかった。  僕が側にいれば、もし結界が敗れた時僕が邪魔になるだろう、それよりはここにいた方が良い、そう考え僕はただ外の様子を探っていた。  三谷原さんと、それからマサの霊力が加わった結界はそれまでより強固に、そして堅固に霊たちから僕らを守る盾となる。

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