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ルカ
『ここにいたんだね』
だが、僕だけの空間のはずのそこに急に声を落とされ、僕は勢いよく振り返った。
カタカタと震えていた肩が許容を超え、思い切りビクリと跳ねる。
『君が、瀧川紫乃くん? 初めまして、ボクはルカ。早速だけど君に、二つの選択肢を与えてあげる』
ここは結界で覆われているはず、なのにその結界を抜けたのか現れた霊は、指を二本立て僕に向き直った。
『一つ、このまま集まり続ける霊に結界を壊され、君の大事な人もろとも霊に貪り尽くされるか。
二つ――それともボクと契約して、この状況を脱するか』
鋭く僕を見てくるその瞳に捉えられ、僕は動きを停止する。
明らかにそれは、この状況を引き起こした主導者の台詞だった。
ここにこのルカという霊がいるという事は、それほど、張られた結界をいともたやすく抜ける事が出来る程までに強い霊という事、加えて彼の台詞からこの集まった霊を彼が従えていると見受けられた。
『早いと思わなかった? 君がこの空間に霊力を満たしてから、霊が周りを取り囲うまで』
その僕の考えを裏付けるように、この霊は自身が首謀者であることを仄めかす。
にこりと笑った顔が仮面のように映り、声も出ないほど全身が震え出す。
パニックに陥った頭で無意識に後ずさりをしていた僕は、壁に阻まれ足を止めた。
後退する僕を追うように前進し一定の距離を保っていたその霊は、はあっと息を吐き表情を緩める。
『何もボクは、取って食おうとしているわけじゃないよ。ただ君が、ボクのしたい事を叶えるすべてのものを持ってるから、協力してもらいたいだけなんだ』
「……僕が、持ってるもの……?」
『そう。ボクの目的は白羽家に近づくこと。その為にその印を持っている君に、協力を仰ぎたいんだよ』
指さされたのは、鎖骨の下の印。
それを指摘されそこを手で覆った僕は、これはマサにも関わる事なんだと気づき深呼吸をして、真っ直ぐ立った。
そして震えないように、強い口調で問いかける。
「マサに、何かするつもり?」
『白羽真斗は関係ないよ。関係あるのはもっと内部の人物だ。そう……今の当主とか、その前の、歴代の当主とか、ね』
「白羽家を潰そうって言うの?」
『そうだよ。でもそれは、君にとっても良い話のはずだ。その印を抱えている限り白羽家と君は切っても切れない縁となる。そしてそれが白羽家にバレたら君はどうなる? 操り人形の如く扱われて、ただの駒として働くしかなくなる。しかもそれは時間の問題、白羽家なんてない方が、君は幸せに生きられるんじゃないの?』
その言葉に、僕はグッと拳を握りしめた。
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