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提案
この霊の言っている事は全てが正論、真実しか喋っていない。
だからこそ僕はこの印を見つけた時に生涯閉じこもる事を決意したくらいだし、それくらいこの印を僕が保持している事が白羽家にバレると大変なことになる。
でも――。
「それでも、白羽家はマサの家だ。潰させる訳にはいかないよ」
僕の意思を伝えるため、その霊と絡む視線を真っ直ぐ逸らさず、僕はそう言った。
それは、彼の提案を拒絶する言葉。
白羽家を潰させる訳にはいかない、だから契約も結ばない、この状況の助けも請わない。
そう僕が言い切ったその瞬間、結界の敗れる気配がした。
「マサ!」
結界が破られると共に押し寄せる無数の霊を思うと血の気が引いた。
居ても立っても居られなくなって駆け出そうとする僕の腕を、慌てて霊が掴む。
『待って!』
「離して!」
もがいて振り払おうとするも霊の力は強く、中々振り払えなかった。
『話を聞いて! 今日は少し脅しに来ただけだから、実際に危害は加えない、外の霊たちは結界を破るとすぐに散るように言い聞かせてある! だからもう少し、話を聞いて!』
態度を変え懇願する霊の言葉通り、確かに外の霊たちが散っていくのが分かった。
と同時にこちら側に来ようとしている、一つの気配。
『ボクは、白羽家に囚われ続けているある人物を救いたいだけなんだ。その為に君に近づくのが適任だと判断した。契約を結んでくれるのなら、君のサクアとしての能力も封じるし、危険が迫ったら守ると約束する。この契約自体は霊と人が結ぶ普通の契約、つまりは人が上のもの、縛り付けられるのはボクの方だ。これを結べば、ボクは君に逆らえなくなる』
先程までの飄々とした態度とは異なり、その瞳には焦りが伺える気がした。
そして提案されたものは確かに、僕にとって好都合とされるものばかり。
僕を信じてないと、出せない提案ばかりで。
「なんで、そんな……」
「紫乃!」
後に続く言葉は、呼ばれた声に消えていった。
この地下に走って来たマサが、僕の側にいる霊に気付くと血相を変えて飛び込んで来る。
『気が変わったら、ボクの名前を呼んで。すぐに、飛んでくるから』
そう言って、その霊は消えていった。
謎ばかりを、残して。
「紫乃、何があった!? 怪我は!?」
「僕は、大丈夫……。マサ、は?」
「俺も大丈夫だ。結界を破られたときはひやひやしたが、何故か霊たちはすぐに散っていったからな」
言いながら僕の体を探り怪我がないか確かめたマサは、本当に怪我がないと分かるとホッと胸をなでおろした。
けれどもすぐに表情を引き締め、両肩に手を置く。
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