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離れる心
はらりと雫が目尻から零れた感触で、僕は目を覚ました。
目覚ましの鳴る前、涙を拭いながら上半身を起こした僕は、変わらぬ朝に昨日の出来事が夢のように脳裏に浮かんだ。
白の床に、黒の壁。
シンプルな部屋にあるテーブルと椅子、それから大きなテレビのようなモニター。
そこに映されている僕の視界を見続けるという、何とも不思議な時間。
そんな一日を振り返りながらも、立てた膝に額を付けた僕は、ただ一言、呟いた。
「さようなら……僕の、初恋」
口にした途端、とめどなく溢れる涙のままに、声もなくそっと泣き続けて。
暫くして、携帯を手に取った。
一人で出歩くなんて、何年ぶりだろうか。
少しの間一人になる事はあった、けれどそれでも僕の側にはいつでも瑛斗がいたし、最近は白羽くんもいて。
学校では人が多い所にいるようにしていたから、登下校も瑛斗と共にしていた僕には、これは本当に久々の一人きりでの外出だった。
最近鋭くなっていた視線も昨日つけた封具の影響かあまり感じなくて、注目を浴びない中を、霊をなるべく視界に入れないようにして、人がいない所を目指す。
けれど人は、いつの間にか馴染みの道を歩んでしまうものらしい。
いつの間にか、最近来ることの多かった公園の入り口に差し掛かっていた。
そこに入り、キョロキョロと辺りを見渡して。
人がいないことを確認すると、そっと優しくそよぐ風に乗せ、声を響かせた。
「ルカ」
昨日言っていたのはもう一人の僕に対して、だから応えてくれるかは分からない。
それに彼が普段何処にいるかも分からないのだ、こんな声が届くとも、本当に思ってはいなかった。
『呼んだ?』
けれど僕の背後に立った霊は、昨日画面越しに見ていた、聞いていた霊そのもの。
間近にいる霊の気配に震えそうになる手を後ろに隠して、僕はその霊と対峙した。
『君は……表の方の紫乃くん、だね。初めまして、ボクはルカ。以後、お見知りおきを?』
「僕の事……知ってるの?」
『もちろん。ボクはもう何年も前から、君を見ていたからね』
「……ストーカー?」
『かもしれないね。恋愛感情はないけれど』
昨日、去る直前にちらりと見せた素顔が原因だろうか。
笑顔が仮面のように感じ何の感情も読み取れなかった昨日とは違い、今は穏やかな表情を携えているこのルカという霊の『ある人物を救いたい』という執着に、左手で胸の前のシャツをくしゃりと握りしめた。
嘘、かもしれない。
僕の心を引くために嘘をついて、本当の目的は別にあるのかもしれない。
けれど契約を結べば彼は僕に逆らえなくなるだろうし、これに掛けてみたいと、密かに考えていた言葉を一つずつ、僕は言葉に出していった。
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