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好きだと、言わないで

「今日は二人に、話があって来たんだ」  二人の身長は同じくらい、百八十センチ弱の背の彼らを僕は見上げ、そして俯いた。  僕がいつもと様子が違う事に気付いたのだろう、緩んでいた空気がピンと張り、僕の言葉を二人は待つ。 「僕は幽霊科に……入学、しない」 「え!?」  そう声を上げたのは、白羽くんだった。  昨日、もう一人の僕が『僕が良いと言うんなら入学したい』、そう言ったからだろう。  後は僕を説得すれば良いだけ、そう思っていた所に落とされた『入学しない』という拒絶の言葉。  口をパクパクとさせ僕の言葉を吟味しているだろう彼の前に、僕は立った。  そして強張った表情のまま、僕の思いを口にする。 「白羽くん……僕にもう、『好き』って言わないで欲しい。君が好きなのはもう一人の僕に対してだよ、そこをはき違えないで。そしてもう……〝僕〟には、会わないで」 「……なんで……」 「辛いんだよ。白羽くんを見るたびに胸が高鳴るのも、顔が熱く火照ってしまうのも。これは僕の感情じゃない、だから僕をもう、かき乱さないで」 『好き』という感情はきっと、もう一人の僕から流れてきているんだ。  白羽くんともう一人の僕が愛し合うのは構わない、でもそれに僕まで巻き込んでほしくない。  そのためにも僕とはもう、会わないで欲しい。  そう懇願した僕の言葉を受けて呆然とする白羽くんから離れ、続いて瑛斗の前に僕は来た。 「紫乃……どういうことだ? もう一人のお前とか……俺、何も……」 「僕の体には僕と、それからもう一人の僕がいるみたいなんだ。最近分かった事だから話せなかったけど、良い機会だから話しておこうと思って」  他人事のように僕はそう零した。  実際、僕はその事について完全に受け止め切れてはいなかった。  ただ白羽くんと過ごしているうちにどうやらその僕とは最近まで白羽くんに会っていて、話していて、キスまでする仲だという。  認めたくはなかった、けれど避けていた心を白羽くんに『好き』と二度目の告白を受けた時に、考えてみたのだ。  結果、出てきた答えが僕の中にはもう一人の人格がいるという、自分に起こるとは到底思わなかった非現実的な、けれどもストンと難問を解決した時のようにそれが心に馴染んでいく心地がして。  ああ、これが正解なのだと。  事実を知り、そして行動を開始した。 「お前は……それを知って、どう思ったんだ?」  気遣わし気に尋ねる瑛斗は、自身がそれを知った衝撃よりも先に、僕がそれにショックを受けていないか心配しているらしい。  僕の弱い所をたくさん見せてきたから、その心配も当然だろう。  そんな彼に弱弱しい笑みを浮かべながらも、向き合うと決めた心を強く保つために、俯きそうな頭を我慢して真っ直ぐと前を向いた。

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