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さようなら
「待ってくれ! ……それは、紫乃にとって一番……辛い道なんじゃないのか?」
話が収束した頃を見計らい、瑛斗くんが声を上げた。
僕らはいわば初対面、けれどそんな挨拶なんて抜きに、僕は彼の方に体を向ける。
「でも、一番幸せになれる可能性がある道だよ」
そしてマサから離れると、瑛斗くんの方向に歩み寄った。
「それに、君では無理だよ。霊を見れない君では僕らに協力する事も、支える事も出来ない、感覚を共有できない。霊を見る事が出来るだけならまだよかった、でもそれだけじゃないんだ。僕らには守ってくれる人の存在が不可欠なんだ。今までは君が守ってくれた、でもこれからは違う。幽霊科で守れる存在は、同じ幽霊科に通う者だけ。だから……ごめんね。それから……今まで、ありがとう」
これまであの子が怯えた時には瑛斗くんが側にいてくれたし、霊は人の多い所にはいないから率先してそんな道を選んでくれたり、常に行動を共にしてくれたり。
色々、本当に色々お世話になった。
そんな彼にこんな残酷な事を言うのは心苦しい、でも言わなくては、はっきりと口にしなければ彼も想いを引きずってしまう。
それに……あの子は、彼の事を恋愛対象として一ミリも見ていなかった。
最初から、望みは薄かったのだ。
それを彼もきちんと分かっているのだろう。
白羽、とマサに声を掛けると、その胸に拳を押し付けた。
「今度あいつを泣かしたら、許さないからな」
「もちろんだ。もう俺は……間違えない」
互いに視線を交わし数秒すると、瑛斗くんはマサから離れた。
「じゃあ、俺は先に帰るわ」
そう言って、背中を向けて手を振る。
「お前らと違って受験勉強、しなきゃだからな」
明るい調子で言うけれど、どこかその声は震えていた。
一人にして欲しいのだろう。
彼はあの子の幼馴染、あの子は鈍感で気づかなかったけれど、見る人が見れば気づくくらい、彼の感情は分かりやすく表に出ていた。
ただ男同士だから、あまり知られていなかっただけで。
その長年の想いを清算するために早く帰った瑛斗くんを見送り、僕らは二人きりになる。
「俺らも、帰るか」
「そうだね」
けれど僕らも、感情の整理が必要だった。
これからについて、幽霊科での日々、そしてマサに頼らないと決めたあの子が頼ってしまった、『ルカ』という人物について。
考える事はたくさんある、そしてそれはマサも同じ。
どちらからともなく歩き出し、マサは僕の家まで送ってくれた。
「じゃあな」
「うん、また」
きっと、次に会うのは幽霊科でだろう。
数か月の別れをその一言で済ませた僕らは、互いに背中を向けそれぞれ歩いた。
その未来が、明るい事を信じて。
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