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第12話
場所は、ベッドがある保の家にした。
自分の家に着く頃には気持ちも落ち着いてきて、まだ寒い室内を暖める為に暖房を付ける。
女でもない、更に経験もない自分が匡樹をどう勃たせるのか。
改めて実行しようとすると、とてつもなく無謀な挑戦だったが、とりあえずジャケットを脱いでスプリングに座る。手助けになればと買った潤滑剤は枕元へ。
匡樹も保に習って隣に腰を下ろした。
「これって、不貞行為のうちに入るのかな」
「一回限りじゃ認められないケースがほとんどだって。継続的に肉体行為を結ばないと。あと喜久川さんの場合更に、今別居状態にあるからもっと該当する可能性は低い」
「ずいぶん詳しいね」
「さっき電車ん中で調べた。てかそもそも男同士なんだし、恋愛感情もないし、夫婦仲修復するためにするんだし」
ファミレスのメニューを読み上げるように匡樹を安心させる理由を並べ上げる。一滴だけ落とした嘘は、にじみもせず事実に溶け込んだ。
「…触ってみていい?」
「…うん」
恐る恐る、布の上から中心を触ってみる。当然反応はない。今度はジッパーを下ろし、引っ張り上げた。
「どっかの本で読んだんだけど、手の形が綺麗な人は男性器の形も綺麗なんだって」
「こんな時に、何の話?」
匡樹はくすりと笑う。
「いや、なんか急に思い出した。人間が人間になる前に母親のお腹の中でさ、手足とか末端の組織はペニスを作る組織と一緒の監督細胞に作られるらしい。だから手足と性器の造形ってなんとなく一致するんだってさ」
「どんな本読んでんのさ」
匡樹は自分の両手の裏表を何度か返して眺めている。
「指が、なんで一本だけこんな形になったのか知りたくて色々読み漁った時期があったから。原因はやっぱりわかんなかったけど」
「ああ…」
申し訳なさそうに口をつぐむので、保はかえってからかいたくなる。
「喜久川さんのは、こんなにへにょへにょじゃ造形なんて判別できないけど」
「うるさいな」
作業のようにしごいてみるが、当然のごとくそれは熱を持たない。会話の内容も内容だし、特に最初から期待もしていなかったが、さてどうしたものか。
「そうだ、電気消して、真っ暗にしてみよう」
「え?」
「で、俺が触ってる間喜久川さんは好みの芸能人でもAV女優でも、好きなの想像してて」
「それね、志保とやるときにもう何十回もしてた常套手段だよ。それでもできないようになっちゃったから困ったもんだ」
「朝勃ちはする?」
「うん。で、その勢いで自分でやってみようと思うんだけど、触り始めると萎えてくの」
「そうか…」
艶っぽい雰囲気をどうやって作ればいいか、必死で考える。元々性欲そのものの基準値が低いせいで限界まで放っておくのや夢精も当たり前、好んでアダルト映像の類いは見ない。よって想像力のストックが乏しく、演出までに至らない。
「男性器の話に戻していい? そういう一色さんのはどうなの?」
「俺? わかんない、誰とも比べたことないから」
「見せてよ」
「指と一緒でめちゃくちゃ醜かったらどうすんの」
「大丈夫だから。見てみたい」
「やだよ」
単純に恥ずかしい。
「え、俺がこんなことになってるのに」
「喜久川さんは被検体じゃん」
「私の身体でもてあそぶのね…」
さめざめと泣くまねをするのでため息が出る。
「わかったよ」
この期に及んでもじもじすると余計不自然な気がして、保はデニムと下着を一緒くたに膝まで引き下げた。
「はい」
「はいって今度はそんな大胆な…」
「自分で言っといて。で、どう?」
「…わかんないけど、俺も、触ってみてもいい?」
「うん」
膝にまとわりついていた衣服を床に落としてしまうと、今度は匡樹が保に触れる。皮の中間あたりをつかまれてゆっくり上下されると、それはゆっくりと起き上がった。
「すごい、もう勃った」
「俺は別に、不全じゃないもん」
本当はそれ以上の理由があったけれど、口が裂けても言わない。そこから更に強く何度かこすられればすぐに完全体になった。
「っ…」
「一色さんの、すごい綺麗」
「嘘だ」
「本当。ピンクで、ちょっと細くって綺麗な形してる」
「…やめろばか」
言葉にされると破壊力がすごい。今度の羞恥はつくろえず真っ赤になって悪態を吐いた。
「指だって、醜くないんだよ」
「それこそもっと嘘」
「本当だよ。ぽっと最近現れた俺一人が言っても、信じれないかもしれないけど」
「信じない」
そんなこと今更言って欲しくなんかない。でも万が一、もっともっと小さいときに、匡樹と会っていたなら、こんな風に小さな爪を嘘の皮膚で隠さないで、堂々といれたかもしれない。いけない、集中しなくては。
「上の服も脱がせていい?」
「俺のリハビリじゃないよ」
「わかってる。でもちょっと、好きにさせてみて」
肯定の意味でシャツのボタンに手をかけようとしたら軽くいなされる。
「あ、だめ。俺にさせて」
「もの好き」
豊満な胸が出てくるわけでもないのに。
「いいから」
ひとつひとつボタンを最後まで外されたら、匡樹は胸の突起をつまんだ。
「ん…っ…」
「感じるの?」
「言いたくない」
「素直じゃないね」
挑戦するような目をしたかと思うと匡樹は、保の胸の突起を片方口に含んだ。
「えっ…」
小さな膨らみをすくい取るような舌使いでなめ回され、骨髄の裏から沸き立つしびれが表面に鳥肌として現れた。本来の目的や理性は次第に薄れ、代わりに匡樹に触られているという事実だけが思考を詰まらせる。与えられる刺激が火種となって網膜の裏まで届き、脳みそを音もなく沸騰させているようだった。
弱い刺激の中に甘噛みを何度か含ませながら、匡樹はどんどん保の息を上げさせる。一人でする、ゴミの日にゴミを捨てるように義務的な自慰行為とは比べものにならない、はっきりとした快楽が足のつま先までびりびりと巡る。
「…っあ…」
反れそうになる身体を必死に押さえていたらついに固い中心を捕まれた。しごかれる最中、胸の刺激は緩められいまま、匡樹の舌が臍を経由し、それにたどり着く。意図を読み取って匡樹の顔を引いて離す。
「ちょ、それはだめ」
「なんで?」
「そんなんやったら絶対もっと萎えるよ」
「そうかな?」
ゆっくりと手を持って行枯れた先にあった匡樹のものは、なんと若干ではあるが熱を孕んでいた。
「まじ?」
「うん。だから、させて」
「わかった。じゃあ寝そべって」
腹をくくることにする。保は鬱陶しかった匡樹のシャツを剥ぎ取ってそのまま大きい身体をスプリングに横たわらせた。
「こう?」
「うん」
さすが自他共に認める健康志向、初めて見る匡樹の裸は程よく筋肉が付いて美しかった。貧弱な自分では余って使っていたベッドのスペースがみっしり埋まっている。その上から、頭を匡樹と逆さにして顔に跨がる。
「一色さん?! 大胆すぎるよ」
「だって舐めたいんだろ?」
「もしかして一色さんって開花したらすごいたらしになるかも」
とにかく役立ちたい一心だったのに、そんな言い草心外だ。だけど今は何よりも、持ち始めた匡樹の熱を逃がさないことに集中する。保が性器を口にくわえたら、匡樹も大人しくなった。
根元を支え、口の中で匡樹の先端を舌で触ってみた。今度は真ん中のあたりで、痛くないように歯を弱く立てて堅さを確認してみる。ゆで上がる前のパスタみたいに、細く芯が通っているのがわかった。根元まで含んでしまって舌を動かすと、少し匡樹の息が荒くなった。
「これ、気持ちいい?」
「…うん」
「喜久川さんは素直なんだね、…っん…」
茶化したのが機嫌を損ねたのか、匡樹の舌使いが急に本格的になった。
「あっ…っや…」
集中力が分散して、匡樹のツボを探り当てられない。舐めようとするのに、口からは浅い息が漏れるばかりだ。
「ほらもっと、頑張って」
「うる、さい…っ」
一枚上手の匡樹に翻弄されて、どんどん呼吸が上がってくる。下半身の熱があぶくせいで吸ったり吐いたりを規則的に繰り返せない。
「やだ、…っあ、…」
声の大きさを恥ずかしがる余裕はずいぶん前からなくなっていた。匡樹に与えられる快感だけに身を委ねれば、頂点がすぐそこまで見えてきて目を閉じる。
「…ああっ…」
絶頂ははじけるように匡樹によって迎えられた。心臓の高鳴りに合わせて胸が上下する。膝を立てていられず匡樹の横に体重を落とした。
「上にティッシュあるから…口ん中のもん、出して」
保の下からねじ出た匡樹が、同じ位置に顔を合わせ口をぱかっと開ける。
「もう飲んじゃった」
「えっ…ええっ…」
顔がみるみる赤くなるのが自分でもわかった。うろたえた声が漏れる。
「なんで飲むんだよっ」
「だって、そんな量なかったし」
「量なんかの問題じゃない!」
恥ずかしくていたたまれなくて必死で視線をそらすのに、匡樹の顔が追ってくる。
「なにっ」
「ううん。可愛いなと思ったら…」
嬉しいような痛いような、複雑な表情だった。はっとして、二人で揃ってそこを眺める。匡樹の性器が、しっかりそり立っている。
「これ、何パーくらい?」
「ほぼ完全」
「すごい、やった」
「一色さん、ほんとに魔法使いだ」
「まだ誕生日前なんだけど。てか男の飲んで勃つってどうなの」
「いやその言い方すごい誤植に満ちてるよ」
「羞恥プレイで不全が治るとはね」
しらけたふりで言いながら、内心は心底ほっとしていた。自分が何かしらの匡樹の役に立てたことに。そして同時に悲しくもあった。試みの成功は匡樹の未来の確定を意味する。
「俺も見た感想、言わなくていい?」
「いいいい、また再起不能になったらやだから」
匡樹が慌てて制止するが、綺麗な形だと正直に言わなくて済んだからよかった。
「で、どうする、続きする? その状態で終わったらつらいだろ。もしくは挿れてみる?」
どうせ一度きりのチャンスだったら、こっちだって記念にもらえるものは貰っておこう、と浅ましく思う自分は結構図太いのかも知れない。
「…いいの?」
「女みたいにはならないだろうけど。その代わり、ちゃんと優しくしろよ」
気持ちを押し殺して、元々不得意な感情表現を更に努めて無愛想に腕を回した。大丈夫、不自然には見えない。
「じゃあ、一色さんの名前呼んでいい?」
今そんなことを聞くのは反則だと思った。だめなんて絶対に言えない。頷きだけ返す。
「たもつ」
耳元でささやかれて、口づけが降ってきた。昼間保が怒りにまかせてした乱暴なキスではなく、甘い唇の重なりだった。
「ん…」
その間に匡樹は、重力に逆らって乱れていた保の髪を梳いて流す。額に、眉尻に沿わせる指はまるで恋人同士がする営みの一部のようで保を錯覚させる。しかし今だけはその錯覚を存分に味わう。一生食べられない高級な食事を思いがけず味見できた気分でその口づけに浸った。
匡樹が枕元に置いていたジェルを指に垂らし、保の奥に触れる。
「怖い?」
注射と同じ原理で痛いことは他人がやるからこそむしろ受け入れられる。信頼している相手なら尚更。
「大丈夫」
指の侵入は慎重だった。違和感はあったけれど思うほど痛くはない。匡樹は様子を見ながら、次第に入り口を広げていく。
内部をあちこち擦られているうちに、特定できないどこかが熱を作り出す。直接性器を触られるのとはまた違った種類の新しい快楽が中からじりじりと生まれた。一度果てた中心も刺激に合わせて勃ち上がってくる。
「あ……」
「痛くない?」
「気持ち、いい…」
「今度は素直なの?」
からかう口調が、さも嬉しそうだったから何も言えなかった。
「挿れてみるよ」
押し当てられた匡樹の先端は変わらず形を保っていて張り詰めていた気が少し楽になった。余計な力が抜けると入りやすくなったのかぐっと匡樹が奥に侵入してくる。
「保を全部見せて…ここも」
匡樹は保の小指を目の前に持ってくる。偽の皮が剥がれていく。一緒に、心の表面までむかれていくようだった。
匡樹は出てきた小指の指紋に軽く口づけると緩い振動を始める。勝手に動くこともできるのに、反応を見ながら保の欲しい量を欲しい分だけ的確に与える。なんで読み取られているのか、まさか匡樹の方が魔法使いなんじゃないかと思うくらい、絶妙に突かれ、徐々に息が上がってきた。
「ん、あ、…あっ」
「たもつ…」
規則的なスラストがやがてもどかしくなって自ら腰を動かした。見上げれば、高揚した匡樹の額に汗がじんわり滲んでいて、その表情を自分がさせていると思うと言われようのない満足が襲ってくる。
「す……き、」
湧き出た感情が脳を経由せず、勝手に扁桃腺を動かしていた。息継ぎで酸素を取り込む途中、ただ声がそう発音してしまった。ひとつまみだけ残っていた理性が赤信号を送る。ああ、もうだめだ、隠せない。どうか匡樹には聞かれていませんようにと頂点へ上り詰める中で願うだけだった。
「あ、あっ…っ」
突き上げられる力が強くなり、最後のひとつきで保は果てた。中に広がる感覚で匡樹も同時に達したのだと知れた。
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