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第3話
しばらくして湊は何か閃いたような顔をした。
「俺は殴られるのは嫌だけど、お前は俺のことが殴りたい。...そして俺に対してすごい苛立ってるんだろ?」
「あぁ、そうだ」
「じゃあさ、俺のことパシリにしていいよ。期限は3週間」
「...はっ!?」
何言ってんだこいつ。パシリって...
湊が言った提案に那智は頭がついていかず、目が点になってしまう。
「だから暴力なしで解決したいからな。お前からしたらいい話じゃねぇか?」
― こいつをパシリ...ってことは、俺はこいつを雑用として好きに色々できるってことで...
それはすばらしい。...そう思い了承の返事を出そうとしたとき湊が先に言葉を発してきた。
「ただし、条件がある」
「条件?なんでだよ!なんでお前に条件なんて出されなきゃいけないんだよ!」
「いいか、お前は俺だけを責めているが、お前の元カノだって悪いんだぞ。誘ってきたのはあっちだし、お前に別れを切りだしたのも元カノさんだ」
「んん、まぁ...」
「それなのに児玉は、全部の理由を俺のせいにしてくる。俺ばかりを責めてお前は自分が俺に対して理不尽なことを言っているな、とは思わないのか?俺は人の彼女とヤッたことに関してだけ詫びはいれるがお前の元カノの尻拭いまではしないぞ」
確かに、そういう湊の主張は正論だった。正しい...潔く認めよう。湊は事実を述べている。湊の迫力に負け思わずそう思ってしまう。
「...わかったよ。で、条件って何、」
「条件は俺がお前のパシリになる3週間誰とも付き合ったりしないこと」
「...は?なんで、」
「理由必要?てか、その条件飲むだけで俺のことパシれるんだからいいもんじゃねぇか」
「うう゛ー...。じゃあ、その条件...呑む」
そして俺はその条件を渋々ながらも了承した。
やはりこの目の前の男を好きに扱えるなんて捨てがたい出来事なのだ。
それに3週間彼女を作らなければいいだけのことだし...。
「それじゃあ、お互い合意ってわけで。明日からよろしくなー、」
「...。」
湊は肩から手を離すと、そのままどこかへ消えていってしまった。
「なんで自分がパシラれるのにあんな呑気なんだよ...」
湊から感じる余裕っぷりに余計に俺はイラつき度が増した。
「明日から3週間...」
あいつに命令しまくってあの余裕な感じを捨てさせてやる。
今からもうあの男の困り果てる顔が目に浮かぶぞ。
その姿を想像し、高らかに笑うと高揚とした気持ちで俺は教室へと戻っていった。
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