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第5話
「湊が相手だったとはな...まぁ、俺は別に那智がいいならいいと思うけど」
反対意見な啓吾とは打って変わって優也は特に反対はしてこなかった。
「さっすが優也!啓吾とは違って、話がわかる奴だなー」
優也の肩をポンポンと叩きながらそう言うと、啓吾はわざとらしくふくれた表情をして「だって、相手が...悪いし」と、ぶつくさと文句を垂れ流していた。
そんな啓吾の行動は昔から変わらず健在してるな、と那智は一人うんうんと頷いた。
「何考えてんだ那智」
啓吾はジーっ、と那智を見ながら不思議そうに首を傾ける。
「別に...てか早くあいつ来ないかなぁ」
「あいつって...湊がこっちに来るのか?」
「さぁね」
「さぁって...」
素知らぬ顔でそういえば啓吾は呆れた様子で溜息を出した。なんだなんだと啓吾を横目で一瞥すれば再び深いため息を吐き出された。
「なんで俺があいつのところにわざわざ行かなきゃいけないんだよ。あいつが俺のところに来るのが普通だろ」
「...あぁ、はいはい」
湊は自分の“足”なのだから向こうから来て当然だと思いそう言葉を発したのだが、それを聞いた優也は鼻で笑い一蹴した。
その態度にムッとした那智であったが、優也の無言の圧力に勝る術もなくその矛先は湊へと向く。
「もう、こうなったら扱きに扱いて扱きまくってやる!早く来い湊!バカ湊!アホ湊!」
「呼んだか」
「うわっ、湊!?」
大声で湊を馬鹿にしていると急に後ろから声が聞こえ、振り返るとそこには当の本人がいた。
「きゅ、急に現れるなバカ!現れるなら一声かけてからにしろよ」
「今お前、俺に一声掛けられてこっち向いただろ」
「...っ、そ、それよりもさっそく俺にパシられろ!」
相変わらず正論ばかりを言われ何も言い返せない那智は慌てて話を逸らした。
そんな那智を見て湊は小馬鹿にした笑みを浮かべるが、那智自身はそんなことには気が付いていなかった。
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