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第20話
「え、何、もしかして忘れてたの!?嘘、ありえな...」
那智の暗い顔に反して啓吾はキラキラとした瞳でこちらを見てきた。
「なんだその目は!今の空気にそぐわない目をしてるぞ」
「だってさ、だってさ」
段々と啓吾の瞳は輝きを増し、口元は上がってきた。
そしてにんまりとした表情でこちらを見てくる。
...性格悪そうな顔だこと。
「お前もついに俺と同等...いや、それ以下になるのかと思って~」
「そ、それは...」
啓吾のその言葉は今回ばかりは冗談として受け止めることができなかった。
それほどに那智は今回全くと言っていいほどテスト勉強を行っていなかった。
授業の時間も休み時間も、なぜだか頭の中は湊のことで埋め尽くされていた。
「もしそうなったら、那智は俺を“バカ”だという権限は剥奪なんだからな~!」
「うぅ、」
俺は何も言えなかった。今まで勉強面では散々啓吾のことをバカにしてきていた。
自分の点数もそこまでいいわけではないが、全て平均点は採っていた。
スポーツでは啓吾には全くと言っていいほど勝てない...だから唯一勝てる勉強で啓吾に威張っていたのだ。
だが今回は色々なこと...主に湊のことだが...そっちに気ばかりがいってしまっていて、テストのことなんか頭に入っていなかった。
高校のテスト範囲は長い...中学ならまだ1週間前でもギリギリいけたが、高校だと俺の学力ではそんなこと通用しない...まじめにヤバい。
すると急に啓吾は俺の前に立ち止まり肩をガシリと掴んできた。
「安心しろ!俺はバカにはしない...憐みの目では見るがな!」
「~~~っ!」
そして親指をビッとたて、爽やかな笑顔でこう告げてきた。
「一緒に補習受けようぜ!」
那智はただただガックリとうな垂れることしかできなかった。
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