「で、教科は何からやる？」 　「うーん、とりあえず数学」 　「数学な、じゃあ問題集出せ。それ使っていくから」 　「え、そんなの無いけど」 　「．．．は？」 　俺が“無い”といえば湊は何とも呆れたような、信じられないという顔でこちらを見てきた。 　「だ、だっていつもノートとかはテスト近くなったら誰かの写したりするぐらいだから家にあるし、教科書とか問題集も家で．．．あー、でも今回はテスト自体忘れてたからノートも何も．．．」 　そう、言い訳くさく言いチラッと湊の方を見ると大きな溜息を吐かれた。 　何だかこの場面だけ見たらまるで俺がデキの悪い子で、湊が優等生のようではないか。 　なんとも悔しい状況だ。 　「じゃあお前はどうなんだよ！毎日持ち帰りでもしてるのかよ！」 　校内でヤリチンな不良と呼ばれているこいつがそんなことをしてる想像をしたが、何とも似合わない絵図だった。 　「んなわけねぇだろ。俺は鞄の中にはノートぐらいしかいれねぇよ」 　「な、それなら俺と同じようなもんじゃねぇか！」 　「いーや、違う。お前と一緒にするな、ほら見てみろ」 　そう言い湊は鞄の中から一冊のノートを出して那智に見せてきた。 　「．．．っ！う、うまい．．．てか、わかりやすい」 　そのノートには黒板に書いてあること以上に詳しく、事細かに文字や数字が書かれていた。 　「．．．本当にお前が書いたのか．．．？」 　普段の湊を知っている分、どうしても湊がこんなノートを書けるとは思えなかった。 　「そんなことで嘘ついてどーすんだよ。俺は頭のデキが良いんだ」 　「．．．う゛ぅ、なんか悔しい．．．」 　 　何だよなんだよっ。顔は良くて喧嘩強くて、体格も良ければ勉強もできるってか。 　「．．．ずるい」 　良いとこ多すぎだろ。性格を抜かせば、もうお前完璧人間だろ。 　「だから俺が教えてやるっつてるんだろ。つーか、俺が教えるんだから本番で絶対いい点採れよな」 　言っていることは俺様だったが、そのときの笑顔には不覚にもドキッとしてしまった。