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第26話
「お前、ばばあにめっちゃ気に入られてたぞ。...あんなこと言ったりするから」
「だって本当のことだし...てか、どこがばばあなんだよ!超絶美人ママで、パテシエだし、めっちゃ羨ましい!」
変に謙遜する湊に褒め言葉を浴びせる。
そして話しながらも、パクリとチョコケーキを1口頬張る。...めちゃうまい...
「どこをどー見てもばばあだろ」
湊はげんなりした顔でそう言った。そんな湊の顔が珍しかったため那智は目の奥にその表情を焼けつけながらケーキを食べ続けた。
「湊はケーキ食べないのか?」
すでに2個目を食べ終わり、残りの1個と湊の顔を交互に見合った。
「お前食べろよ。俺は別にいいから」
「え、まじ?やたっ!」
湊の了承を得るやいなや俺は残った1個に手を伸ばし、一口一口を楽しみながら食べ始める。
甘い生クリームが口の中いっぱいに広がり、幸せで心が弾む。
「本当甘党なんだなぁ、」
「おう!甘いのは大好物だ!」
そう言えば、湊は半ば感心した様子でこちらを見てきた。
もう甘いものがない人生なんてありえない。そう断言できるほど那智は男としては少数派の甘党だ。
「お前、幸せそうな顔で食うよな。そんな姿他の奴が見たらそれこそイチコロだな」
「は?何それ、お世辞?」
「そんなんじゃねぇよ」
湊は机の上に肘をつき、顔をのせると俺の方をじーっと覗くようにして見てくる。
その時、頬が赤く染まるのを感じた。
顔が熱くなっていく...絶対今の俺の顔赤くなってるな。やばいやばいっ、
そんな顔を見られたくなくて最後の一口を口に入れるとそのまま湊とは反対の方向を向いた。
「ケーキごち」
一応礼は言っておかなくては、と思いボソリとそう言う。
「...照れてんのか?」
「っ!?」
すると急に湊はそう呟く。そして無理やり俺の顔を自分の方に向かせてきた。
「顔赤いし」
湊は口角を上げ、目を細めて笑んできた。その時の湊の顔が妙に自分の中のツボに入り、那智の顔は余計に赤くなる。
「ち、違ぇし!ケーキ食べて興奮しただけだ!!」
「何だよそれ」
はははっ、と湊は声を出して笑った。
どれほど苦しい言い訳なのかは自分でも分かっているつもりだったが、実際にそこまで笑われると段々と恥ずかしくなってくる。
「笑うなバカ!」
「ケーキで興奮なぁ...」
那智が止めても湊はなおも笑い続けた。
もうどうすることもできなくなりしょうがないとこの場を諦め、他に何か話を振ろうとあたりを見回した。
だがしかし、ネタを探すためにあたりを見回すも、考えつくのは改めて湊の部屋はきれいだな、と感嘆する思いだけ。
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