32 / 93
第31話
「今日で最後って知ってたか?」
ファミレスに着き、湊は届いたパスタをフォークに巻きつけながらそう言ってきた。
「何が最後なんだ?」
特に思い当たることがなかった那智は口に入っていたハンバーグを飲み込み、軽い感じで問い返した。
そしてすぐにまたハンバーグとライスを口の中へと運んでいく。
「あー、やっぱり覚えてなかったか。ほら、あれだよ。俺のことを3週間パシリにしていいっていう約束の期限」
「...えっ!?今日だっけ」
湊の言葉を聞いて那智は一瞬固まり、食事を中断した。
忘れてた...すっかり忘れてた...
― 今日で...最後ならもうこいつのことを呼びだす理由もなくなってしまう...
そう考えていると那智の中に急に大きな消失感が現れた。
「3週間って言っても結構あっという間だったよな」
「...あぁ、そうだな」
湊と目を合わすことができなくて、目線を下げながら話した。
「3週間俺は楽しかったぜ?お前のバカな行動とか見れて」
「なっ!うるさい!」
こんな日までバカにされた...!最後の日くらい少しは自重しろよな!
...そうだよ、ムカつくんだよ、湊のこと...一緒にいたらムカつくんだ!
そんな湊をパシリにもうできないからこんな消失感なんて現れたんだ!!
理由はそれだ!じゃないと...じゃないと、だって...まるで...
「まぁ、学校一緒だしクラスも近いから、特にこれといって何も変わらないと思うけどな」
いや...変わる...そんな接点だけだときっと俺と湊は段々と会わなくなっていく。
特に湊とは共通点もない...どちらも部活をやっていなければ、帰りの方向も違うし
それぞれ仲の良い友人がいるからわざわざ相手の教室に用もないのに行くこともない...
「だな、近いしいつでも会えるよなー!」
表向きには必死に那智は笑顔の仮面を貼りつけ、何ともないという風に装った。
だけど本当は苦しかった。湊と接点がなくなる...そう考えると胸が痛くなる。
しかし、そんなことを言っても、表情に出してしまってもそれは湊を困らせるだけの原因になるだけだ。
せっかく2人でここに来たのに雰囲気を濁してはいけない。
だから必死になって感情を隠した。
― なんだよ、これ。なんで俺、こんな...
そのせいか、その時食べていたハンバーグはとても味気なく感じた。
ともだちにシェアしよう!