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第38話
「那智?」
急に肩を軽く叩かれ名前を呼ばれる。...聞き慣れたあの声で、
「けい...ご、」
すぐに肩を叩かれた方を見ると、そこには私服姿の啓吾がいた。
「うっ、え、?な、那智泣いて...っ」
「...なんでも、ない」
涙が止まらないまま反射的に啓吾の方を見てしまってたため、そんな俺の顔を見て啓吾は驚き狼狽した。
那智は気まずくなって涙を拭うが、すぐにぽろぽろと流れてきてしまう。
「...なんでも、なくないだろ。そんな泣いて、」
「...」
啓吾は急にまじめな顔で俺を見る。先程まで狼狽ていたはずの啓吾は一瞬のうちに消えてしまっている。
「行くぞ」
「はっ?ちょ...け、啓吾っ」
かと思ったら、啓吾は俺の腕を掴みどこかへと歩き出した。
不意打ちなこともあって俺の身体はすんなりとその位置から動いた。正直今は何もしたくなかった、1人でいたかった。
だから啓吾の手を振り払いどこかへ行こうとしたが、腕を掴む啓吾の力が強く、振り払えない。
「...どこ、行くつもりなんだよ」
「何処って、やっぱりテンション上げるにはカラオケだろ!」
「カラオケ?」
ありえない...普通泣いてる奴にマイク渡して歌わせたりするか...?
「そう、カラオケ!最近テス勉とかで全然遊べなかったじゃん。せっかく街で会ったんだから、どうせなら遊ぼうぜ」
啓吾は俺の涙のことには一切触れずに、そう笑いながら言ってきた。
しかし、気のせいか腕を掴む力が少し強くなった気がする。まるで有無を言わせぬような態度。
――拒否の言葉も受け付けない...か。
そんな啓吾の行動に俺はため息をしてしまった。
だけど、本当は啓吾のその行動をどこか嬉しくも感じていた。そのせいか気がつけば涙も止まっていた。
いつも啓吾はそうだった。小さい頃から一緒にいて、普段は2人でバカやったりしてるのに俺が落ち込んでいたりすると強制的にそんな俺を連れまわすのだ。
そうしたらいつの間にか俺も気分が良くなっていって、元気になっていた。
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