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第39話
「喉からからー」
カラオケボックスに入った那智は初めのうちこそあまり乗り気ではなくぼんやりと啓吾の歌を聴いていたが、無理矢理啓吾に歌わされ最後には
今の気持ちを全て打ち付けるかのように全力で歌を歌っていた。
そのため、歌いすぎという疲れでソファにだらしなく横になって休んでいた。
「はい、どーぞ」
「どーも」
すると啓吾は先程頼んだカルピスを俺に差し出してきた。喉がからからだった那智はすぐさま起き上がると差し込んであるストローに口をつける。
ストローを通って喉に流れていくカルピスが冷たくてとてもおいしい。
喉を満足するまで潤わせた俺は歌う啓吾の方をちらりとのぞき見る。
―こいつ、本当何も聞こうとしてこないよな...
ここに来てからも啓吾は俺が泣いていた理由を聞いてはこなかった。
ただ歌って、歌わせて...それを繰り返していただけだ。
なんで何も聞いてこない...いや、聞いてほしいとは思わないが、ここまで触れられないと何だか話したくなってしまうような...ならないような...
「うっ、い、痛いっ」
そんなことを考えていると、急にマイクを頬に押し付けられ那智は軽く呻いた。
「次、那智だぞー」
「え、俺?あー、喉痛いからとばして。てか、マイク離そうか」
そういうと啓吾はようやく那智の頬からマイクを離し「んじゃあ、もういっちょいくか」とやる気を見せ再び歌い始めた。
「はぁー...」
啓吾に、言うか...?でも、なんて言う。
軽ーく“さっきさー、湊が男とちゅーしてたさぁー”って?
いやいや、待て。それならなんでそこから俺が泣くんだって言う疑問が生まれてきてしまうのではないか?
てか、どんな言い方をしてもその疑問が生まれてしまうのでは...
「...やっぱり言えない...」
啓吾には今まで何でも言ってきた。
でも今回ばかりは言えない...というか、俺自体が泣いていた理由をちゃんと纏めきれていないからどう言えばいいのかが分からない。
――まぁ、いい。
今日は素直に啓吾のこの優しさに甘えよう。
そう思い、俺はこのことを考えるのをやめた。
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