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第52話
「何、思いつめた顔してんだ。色男が台無しだぞ」
自分の中で考えを巡らせていると、ふと横から声をかけられ那智は意識をそちらに向けた。
「お前こそもっと表情豊かにしろよ、優也」
無表情のまま声をかけてきた優也に対して那智はそういい返し見本でも見せるかのようにしてニコリと笑った。
だが優也はそれも流し「あんま考え過ぎるな」とだけ言って、那智の隣の席についた。
「優也...。な、なぁ、特に意味はないんだけどさ...その、優也って男同士の恋愛って...どう思う?」
「別にいいんじゃないか、それはそれで。個人の勝手だし。だけど、那智...」
「うん...?」
「湊はやめとけ」
瞬間、息が止まりそうになった。
- なんで優也がそんなこと...。しかも俺はまだ重要なことは何も言ってないのに。
“湊”という言葉だって一言も話していないのに。
「なんで、湊が出てくるんだよ」
声が震えそうになるのをなんとか堪えて、那智はそう訊ねる。
チラリ、と優也を見ればこちらをじっと見てくる瞳と合い、慌てて目を逸らした。
「見てればわかる」
「...」
「お前はわかりやすいから」
言葉は出ない。今の優也に否定の言葉は無意味だ、と分かった。
優也は勘が鋭い。きっと何も言わなくても大体のことはわかっているのだろう。
「そんなこと言うなよ...」
ぼそりと呟いた言葉が優也に聞こえたのかどうかはわからない。
「那智、お前さ...啓吾と――」
「啓吾となんだよ」
優也が言い終わるのを待たずに続きを催促すればそのせいか、急に優也は黙り込んでしまった。
「何なんだよ。何言おうとしたんだ」
何かを知っているような雰囲気の優也。
- 俺の知らない啓吾のことを知っているのか?
だけどそれから何度聞いても優也がその問いに応えることはなかった。
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