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第53話
その日の最後の授業は科学で実験をするため、那智は優也と教室移動をしていた。
「そういえば那智、今日提出のプリント持ってきたか?」
「プリント?」
「ほら、このプリント」
優也はパラパラと自分の教科書を開き、ある1枚のプリントを出してきた。
しかしそのプリントは机の中に入っていて今この場にはないものだった。
「え、それ今日提出なの?俺、それ教室にあるんだけど」
時計を見るとあと3~4分でチャイムが鳴るところだった。
ここから教室までは往復で走っても5分ほどかかってしまう。遅刻になる確率は高い。
ほんの少しの遅刻で入室許可証をわざわざ職員室にまで取りに行くのは面倒くさい...
「まぁ、提出しなくても...」
「提出しなかった奴は罰則として他にプリントが10枚与えられるらしいぞ。期限2日で、」
「取りに行ってきます」
「それが賢明だな。てかあの道使えばすぐに取りに行けるんじゃないの?」
優也に教科書などを任せて、行こうとした時ふとそう言えばという風に優也はぼそりと言ってきた。
――あぁ、忘れてた。あの道があったんだ。
「そうだな。じゃ、急いで取ってくるわ!」
そして那智は優也に背を向け走り出した。――窓の方に向かって。
あの道...それは非常階段のことだった。今、那智達がいるところは1階で教室は3階。
外から各階の中に繋がっている非常階段を使えば無駄な距離がなく短時間で行き来することが可能だった。
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