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第54話
「よいしょっと、」
窓から外に出ると、那智はここからさほど離れていない所にある非常階段の方へと走っていった。携帯で時間を確かめると、タイムリミットはあと3分だった。
「うん。ギリギリいける」
多分、チャイムと同時に理科室に着くことができるだろう。
とにかく鳴り止む前に教室に入ってさえしまえばいいのだ。俺の道理では。
階段に着き、走るスピードを変えないでそのまま上がっていく。
駆け上がるたびに無機質なパイプの音が鳴り、あたりが静かなせいかやけに響いて聞こえる。
1階の扉の横を通過して駆け上がり、すぐに2階の扉に近づいていく。...あともう少しで3階――、
――バンっ、
「うがっ!」
2階の扉を通過しようとした直前、急に目の前で扉が開きすぐに反応をすることができなかった那智はその勢いのまま思い切り扉に顔面から衝突した。
まさかの出来事に驚き...というか驚く暇もなく額と鼻に痛みが走り那智はしゃがみ込んで悶えた。
「わっ、ごめんね、大丈夫?」
すると上から女の声が聞こえ、顔を上げるとそこには美人で有名な3年生の先輩がいた。
これは格好悪いとこ見せちゃいけない。そう本能的に思った俺はすぐに立ち上がり「大丈夫です」と一言言うとまた走り出そうと一歩踏みしめた。
「何、話してんだ」
「っ!」
しかし女の背中越しに聞こえた、聞き慣れた声に体は反応し、歩みを止めるとそのままその声のする方へ顔を向けた。
「啓吾!」
「...那智」
そこには最近ずっと会っていなかった啓吾の姿があった。
那智の姿を確認した啓吾自身も同様に驚いたような顔をしていた。
「あれ、もしかして清水君の友達?」
だが、先輩が啓吾にそう話しかけると啓吾はハッと我に返った様子で無表情になった。否、不機嫌な様子になった。
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