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第64話※
「久しぶり。てかさ、那智見てないか?」
“那智”その言葉を聞いて啓吾は一瞬言葉を詰まらせる。
するとそれを見逃さなかった優也は「会ったのか...」と鋭く言い当てた。
「...」
「ケンカでもしたの?」
口を閉じたままの啓吾に対し何をするでもなく優也は静かに隣に座ってきた。
「ケンカは、してない」
「じゃあ、那智と何があったの。お前の顔を見れば何かあったことくらいはわかってるんだからさ」
「...っ、」
本当、優也は鋭い。でも那智にしたことを言うのか...?那智を無理矢理犯しました...って。
「啓吾...」
そう言う優也の声は威圧的で、まるでいいから言えとでも言わんばかりに感じる。
「...っ、那智と...」
「うん」
「那智と、ヤッた...」
「...は?」
優也は何を言ってるんだと言う顔でこちらを見てきた。まぁ、すぐ頭の中には入らない言葉だ。しょうがないだろう。
「だから、那智とヤったんだよ」
「それは、合意の上でか?」
「...違う、無理矢理...。あと、抵抗されたから殴ったり、蹴ったりもした」
「お前...っ」
「でも俺は那智を抱くことができたんだ!殴ったりしたのも那智が大人しくしてればよかったに抵抗するから...だから俺は何も悪くない。満足してるし、後悔なんてしてな――っ!?」
最後の言葉を言い終わらないうちに優也に勢いよく胸倉を掴まれ鋭く睨まれる。
「お前それ、本気で言ってんのか?暴力振るって無理矢理ヤッて満足してるって?そんなことして本当に後悔の1つもないのかよ!?」
ギリリと音が出そうなほどきつく掴まれ息苦しくなる。だけど今の啓吾にはそんなことよりも優也の言葉が胸に突き刺さった。
「それが本気なら俺はもうお前のことダチでもなんとも思わないし、もちろん那智との事も協力しない。俺は那智のことを大切に想ってる啓吾だからこそ2人が両想いになって欲しいと...だから協力してたんだ」
「...っ」
「暴力振るっても悪いのは那智。無理矢理犯して満足する...そんなことを本気で言うお前には那智と一緒にいる資格はない」
それだけ言い切ると優也は真剣な表情で啓吾の目を見てきた。
その瞬間、啓吾の頬を何かが流れ落ちた。
「俺、は...っ、」
...それは自分の瞳から流れ落ちた1粒の涙だった。
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