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第65話※

 優也の言葉は胸にズシリと覆いかぶさった。 そしてそれは啓吾の心の殻を打ち砕いていき、中身を晒していく。  「本当はあんな風に...那智としたいわけじゃ、なかった...」  「啓吾...」  優也は締めつけていた手を離した。 何を言うでもなく話を聞く態勢に入る。  優也に言われて自覚した、自身の本音。それは先程まで言っていたこととは正反対のことだった。  「あんな風に抱きたく...なかった。その場の感情で暴力を振るったのも、後悔してる...那智を傷つけたいわけじゃなかったんだ、」  一度言ってしまうとスラスラと本当の気持ちが出てきて、それと一緒に後悔の涙が出てくる。  「本当は、会えたことが嬉しかったんだ。自分から那智と距離を取ったくせにさ...それなのに俺はその場の感情で那智を傷つけてその理由を合理化して...自分がしたかったことが分からなくなったんだ」  那智を傷つけて自分は傷つかないようにと都合のいい理由で心に殻を作った。 傷つけた後も逃げるかのようにあの教室から出た...俺は...俺は、  「俺は最低だ...」  そう口に出すと同時にズルズルと啓吾は壁をつたって階段にへたり込んだ。  「...お前は確かに最低な奴だ。だけどちゃんと那智に謝って自分の気持ちを説明したら...もしかしたら那智も...」  「それは無理だ」  「っ、なんでだよ!」  「...もし、だ。俺が優也のいう通りに行動したとしても、多分俺はまた同じように那智を傷つけちまう」  頭を抱え、俯く啓吾には今の優也が自身の言葉を聞いてどんな顔をしているのかは分からなかった。

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