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第66話※

 「1つ聞くけどさ、俺の今の姿見てお前はどう思った?」  「は?どうって...」  「那智の気持ちに気がついて、全部どうでもよくなって一人でムシャクシャしてる。もしくはただ単に那智と距離を置くためにこんなことをしてる...そう思ってる?」  そう言った啓吾の問いに優也は何も言わなかった。多分、そうだと思っていたからだろう。  だけど....  「でもそれは違う。そんな理由じゃないんだ。無理してこんなんになったんじゃない...今のこの俺が、本当の...俺なんだ。」  那智の隣にいた、今までの自身は素ではなかった。那智のことは好きだが、自分はゲイなんかじゃないから普通に女と遊ぶことも好きだった。ケンカだってスカッとするのが好きでやむしゃくしゃすればやる。  だけど那智がそれを望まない。だから俺は本来の自分を抑えこんで隠していた。  「俺はもう那智の親友には戻れないし、戻りたくもない。那智は湊のことが好きでそんな那智を近くで見続けるのも嫌だ...だから俺はそうすることができないんだ」  「....。」  啓吾の言葉に優也は言葉を詰まらせていた。啓吾と那智の中を修復したくても目の前の男はそれを望まないのだから。  前みたいな立ち位置に戻っても親友に戻ってしまうし、そうなると近くで那智が他の奴を愛でるところを見てしまわなければならなくなる。  - それなら俺がすることは1つ、  「だから俺は本来の俺で那智に近づく...後悔してでも。嫌われてでも、やっぱり那智から離れることはできないんだ。」  那智と会わなかった時間、そしてさっき那智に向けられた侮蔑の視線。どちらも辛いものがあった。  「...不器用すぎだろ」  優也は悲しそうにそう呟き、荷物を持ち直すと啓吾を置いて階段を上っていった。  それからすぐにざわざわと他の生徒の声と足音が近づいてきた為、啓吾は場所を移動しようと立ち上がり屋上へと向かいだした。  その時、頬には乾いたはずの涙が何かを訴えるかのように流れ続けていた。

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