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第68話※

 琉依の舌が俺の口の中を貪るようにして激しいキスを繰り返す。  しばらくして、新鮮な空気を求め始めた俺は琉依の肩をパンパンと軽く叩く。  「あ...ごめん、」  顔を赤くして肩で息をする俺を見て琉依は頬を朱に染め、目線をずらした。  「...約束、ね。琉依」  “約束”俺がその言葉を口にすると琉依は悲しげに眉を下げ、あぁ、と小さく返事をした。  約束、それは俺がここに戻ってきて琉依と交わしたものだった。  琉依は中学の時...俺が父の仕事の都合で外国へ行くと決まった時、告白してきた。  でもその時すでに心の中にはあの人がいたから、俺は琉依の気持ちを受け止めることはできなかった。  それでも俺の返答に琉依は納得がいかないようで、何故だと何度も問いてきた。  だから俺はあの人のことを言った。すると琉依は一粒、また一粒と涙を流し始めた。  その姿を見て俺はひどく狼狽した。それは親友が泣いたから、という理由だけでなく、琉依が...あの琉依が涙を流したということに驚き慌てた。  俺にとって、とても大切な親友。そう、親友だった。だから琉依のことを好きにはなれない。 でも、大切だったから、俺は...  『望(ノゾム)のことは諦める...だから、次また会えた時...あいつに会うまでの間だけでいいから、キスさせて?』  その頼みに、俺は黙って頷いた。  今思えばあれは、ただの同情だった。最低な同情。 それが俺と琉依の約束だった。  俺は酷いと思う。琉依の気持ちに気づかないふりして、散々助けてもらっていたのに自分があの人に近付けるとわかれば都合のいいように琉依を切り捨てるようなことをする。  最低だ...頭では分かっている。琉依にひどいことをしていることも分かっている。  それでも...それでも好きなんだ...この気持ちに嘘はつけない。  琉依は大切だ...だけどあの人とはまた違う意味の大切さ。  ―琉依、俺はあの人に近づきたいんだ...俺の内面を変えてくれた....  ―清水 啓吾に、ね。

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