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第四章・12

 比呂士が帰宅すると、輪はキッチンのテーブルでうたた寝をしていた。 「輪、風邪をひくぞ」 「あ、お帰りなさい」  延々と続くタブレットの動画に目を落とし、比呂士はニヤリと笑った。 「勉強熱心だな」 「涼宮先生。山本くんの件、ありがとうございました」 「知っているのか」  山本くんから電話がありました、と輪は答えた。 「これでもう、山本くんは自ら命を絶つような真似はしませんよね?」 「大丈夫だろう。元気に小説なんか書いていたぞ」  これで、良かったんだ。  人の命を救うことができたのは、天使として誇るべきこと。 「だが、その代わり、お前は私の手に堕ちた」  は、と輪は比呂士を見た。 「良かったのか? これで」

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