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第六章・14

「あぁ、忙しい。忙しい!」  先にマンションへ戻っていた輪が、キッチンで何やらバタバタしている。  高校教師としての勤務を終えた比呂士は、ひっくり返ったキッチンに呆れた。 「また、何をやっている!?」 「あ、比呂士先生! もう帰ってきちゃった!」  返事になっていない、と悪魔は文字通り角を立てた。 「何をすれば、キッチンがこんなに散らかるんだ!?」  それには真顔で答える、輪だ。  頬に、チョコレートが付いているが。 「トリュフを、作ってました」 「それはもう、済んだだろう!」  いいえ、と今度はやけに萎れた様子の輪に、比呂士は心配になった。 「クラスに、渡し損ねた奴でもいたか?」 「はい……」

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