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第六章・17
「僕、自分の都合ばかりで、先生のこと、何にも考えてなくて……。ごめんなさい」
「泣くな」
ぽろぽろと涙を零す凜の頬を、比呂士は指腹でぬぐった。
「輪が、全部作ったニャ」
「私たちは、やり方を教えてあげただけニャ」
「ヴェルフェル様、輪の手作りトリュフ。きっと美味しいニャ」
そうだな、と比呂士は輪を抱き寄せ柔らかな髪を撫でた。
「ありがとう、輪。ハッピーバレンタインだ」
「ありがとうございます、比呂士先生……」
泣いていた輪が、ようやく笑顔を見せた。
(まだ私のことを、心から愛しているわけではないだろう)
だが、今は。
今夜は、これで充分だ。
比呂士もにっこり微笑むと、ブラウンのトリュフを一つ摘まんだ。
素敵に甘い、バレンタインデーの味がした。
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