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第七章・19

「帰っても、いない」  昨日は、せっかくだから私服に着替えてデートします、などと言って比呂士を密かに喜ばせた輪だ。  俺のために、おしゃれをする。  そんな輪を嬉しく思った、比呂士だ。  用意された一張羅は、静かにクローゼットに眠っている。 「ネコ」  比呂士は、木彫りのネコを動かした。 「ヴェルフェル様、今夜は外でお夕食ではなかったのかニャ?」 「輪は、まだ帰っていないのかニャ?」 「帰っていないから、捜索しろ」  かしこまりましたニャ、とネコたちは散って行った。 「何事もなければいいが」  今にもドアが開いて、輪が帰ってくればいいのだが。  いらいらと、比呂士はソファに腰かけた。

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