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第八章・11
「ご、ごめんなさい。先生の体、汚しちゃった」
「構うな。拭けばいいことだ」
それより、と比呂士は輪を組み敷いた。
「これからが、お楽しみ。そうだろう?」
「比呂士先生……」
来て、と比呂士の首に輪は腕を回した。
甘い仕草に上機嫌になった悪魔だったが、ふと何かの気配を感じ取った。
「ん?」
誰もいない。
いるはずもない。
ここはホテルの最上階、スウィートルームなのだから。
気を取り直して、比呂士は輪に口づけた。
その様子を、一部始終を、黙って監視する者があった。
『天使候補生108号が、悪魔と姦淫しています』
白い翼をはためかせ、最上階の窓から二人を無表情に観察するその姿。
天界から派遣された、巡視官だった。
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