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第十章・10

「我が伴侶に、よくも薄汚い消去光など撃ってくれたな」  万死に値する、と比呂士はつぶやいた。 「比呂士先生、危ない!」  輪の声にも、比呂士は動じなかった。  迫って来るマヌエルフが放った渾身の消去光にも、怯まなかった。  ただ、一言。 「殺」  パチン、との音もしなかった。  マヌエルフは、シャボン玉のように弾けて消えた。  輪はその様を見て、心底震えた。 (何の波動も、感じなかった)  指一本動かさず、中級の、しかも巡視官である天使様を、比呂士先生は葬り去った。 (比呂士先生、いや、違う) 「大悪魔・ヴェルフェル様……」 「ようやく言えるようになったか、輪」  殺戮の後でありながら、比呂士の笑顔はやけに晴れやかだった。

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