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第十一章・3
「比呂士先生」
頭を殴られたような気がした後は、心臓が掴まれているような心地だ。
縋るような眼を比呂士に向けると、彼は瞼を伏せ加減で頷いた。
「確かに当初は、そのつもりでお前に近づいた」
だがしかし。
「だが、今は違う。お前に捧げた家伝の指輪に誓って、言おう。輪、お前は私のかけがえのない伴侶だ。標本になどしないし、天界へも渡さない!」
輪は、比呂士の手を握った。
大きな、優しい手。
その手を、ぎゅうと握りしめた。
そして、アウレリオを真っ直ぐに見た。
「僕は、今の言葉を信じます。もう、天界へは戻りません」
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