2 / 24
第2話
無意識に逃げを打った体は、一瞬のうちに強い力で引き寄せられる。
それもそのはず、貧相なチカと同じ男とは思えないくらい彼の体は逞しく、健康的な褐色の肌に艶を纏った豪奢な金髪は、本の中でしか見たことはないが獅子を思わせる尊大さと、しなやかさを併せ持っていた。
鼻梁が高く彫りの深い、男らしい容姿をしており、ヘイゼルの瞳が意志の強い光を放っている。しかも、身長も三十センチ以上彼のほうが高かった。
「あっ……あぁっ!」
それとは逆に、掠れた声を上げながら、夢中でシーツを引っ掻くチカの肌は雪のように真っ白で……腰のあたりまで伸ばされた髪と瞳は闇夜のような黒。体は細く、大きなハルを受け止めるには、かなり頼りない印象だ。
「気持ちいいか?」
「あっ……いい、きもちい……」
「ここが一杯になるまで、頑張ろうな」
「うぅ……ん、がんばる」
下腹を、優しい手つきで撫でられ何度も頷くと、「いい子」の声が聞こえてきたから、深い愉悦の渦の中、チカは何度もハルの名前を掠れた声で呼び続けた。
***
「麓の街、見てきてくれない……かな?」
そうハルへと伝えることができたのは、嵐の晩から三日が過ぎた朝だった。
そして、今日はハルの発情期がちょうど終わった日でもある。
「いいけど、なんで?」
「だって……食料とか、街で買うでしょ?」
こんなに大きな嵐の記憶はチカの中にはなかったから、周りのことを心配するのは当たり前の感情のように思うけれど、それを聞かれるということは、自分はなにかおかしなことを言っているのだろうか?
「わかった。チカの好きな蜂蜜を切らしてたから、今日は街で食料を買ってくる」
起きあがって伸びをしたあと、こちらに向かって笑みを浮かべるハルの姿に安堵しながら、「ありがとう」と礼を伝えた。
「チカはいい子に待ってろよ。倒木があるから外には出るな」
「わかった」
ハルに続いてベッドから下りたチカだけれど、ここ数日はセックス続きだったため、体がふらりとよろけてしまう。
「ちゃんと食べないからだ」
すぐに逞しい腕が伸びてきて、転倒するのは避けられた。悪びれもしない彼の言葉に「誰のせいで」と言いかけたけれど、結局声を飲み込んだ。
ともだちにシェアしよう!