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第3話
「いってらっしゃい」
玄関でハルを見送ったあと、馬車の姿が見えなくなるまで窓から外の様子を眺め、それからチカは広い室内を見渡した。
今日は外へは出るなと言われている。ならば、彼が帰ってくるまでの間に掃除を済ませ、それからは書庫で過ごそうと考えた。
掃除をするとは言ってみても、いつも綺麗にされているから、拭き掃除と床をモップで磨けばそれで終わってしまう。洗濯についてだが、チカは一回もしたことがなかった。
どういう訳か? 寝ている間に綺麗になってクローゼットへ仕舞われているからだ。
「えっと……」
まずは、柄の長い箒 を手に取り、換気するために窓を開けようとしたのだが……鍵もかかっていないのに、チカの力ではびくともしない。
「しょうがないな」
こんな経験は初めてじゃないからチカはすぐに諦めて、窓の外へと広がる景色を瞳を細め見渡した。
家というには大きいけれど、屋敷というにはこじんまりとしたこの建物は、広大な敷地のほぼ中央にあると聞いている。
ハルと一緒に過ごすことの多い洋間には、手触りのいいペルシャ絨毯と、ベルベッド素材のソファーが配置されており、北側の壁には大きな暖炉があった。それに加えて寝室と客間、書庫とサンルーム。二人で暮らしていくには少し広いけれど、掃除をするのに困るというほど広い建物でもなかった。
そして、屋敷の外に広がる世界は、チカから見れば大きな草原とその先にある森だけだ。緩やかな丘陵の上に屋敷はポツリと建っており、四季折々の花を咲かせる草原を抜け、森を通らねば、麓の街にはたどり着けないと昔ハルから聞いていた。
チカは街へと降りたことがない。
だから、ハル以外の人間を実際に見たことがない。
行ってはならない場所だとハルに言われているから、それが何故かは知らないけれど、そういうものだと思っていた。
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