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第5話

「どこだろう」  呟きながら、書庫にある窓の一つ一つを確かめていくと、書棚に隠れた一番奥の窓が少しだけ空いていた。 「ここか」 「面白い本を見ているね」  窓を閉めた丁度その時、背後から声がかけられる。 「っ!」  驚きのあまり息を詰め、恐る恐る振りかえってみると、さっき自分がいた場所に座り、笑みを浮かべる人物がいた。 「すまない。驚かせたみたいだね。どうしても君に会いたくて」 「……誰、ですか?」  長い赤髪を後ろで一つに束ねた男は、さっきまでチカが読んでいた本をペラペラとめくり、穏やかな笑みをこちらに向けて、「分かりやすく書いてあるね」と告げてくる。  彼が身体に纏っているのは、丈の長いコートのような装束で、黒地に金の美しい刺繍が施してあり、この形の服はハルも外出の時に着用している。  そして、ハルと同様、腰には綺麗な細工のされた銀の短刀が吊されていた。  重たいから無理だと言われ、チカはその服を身につけたことがないけれど、いつか着ることができたらいいなと内心密かに憧れていた。 「白い肌に漆黒の髪と瞳。なるほど……噂通りだ」  チカの質問には答えないまま、立ち上がった赤髪の男は、ブーツの音を響かせながら、すぐ目の前までやってくる。 「安心して、俺はハルの友人だ。今だって君を驚かせようとしただけ。分かるかな?」  ウインクをしながらこちらへ手を伸ばしてくる男から……チカが逃げようと走りだしたのは、ハル以外の人間を見てパニックに陥ったからだ。 ――ハル、ハルっ! 「やっ……あっ」 「可哀想に」  ドアノブを掴み回してみるが、何故か全く動かない。背後から声が聞こえるけれど、振り返るのが怖かった。 「部屋の結界を入れ替えたから、君の主人は異変に気づかない。危害は加えないから、少し落ち着いてくれないか」 「……っ」  肩を掴まれ咄嗟に体を引いたチカだが、次の瞬間……糸の切れた操り人形みたいに床へと座り込む。腰を抜かした訳ではなく、いきなり脚から力が抜けてしまったのだ。 「大丈夫だよ。話が済んだら動けるようにしてあげる」  恐怖に身体を震わせていると、目の前へ膝をついた男が、内緒話でもするみたいに耳許で低く囁いて……どうすることもできないチカは涙を浮かべて頷いた。

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