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第9話
――どう……して?
「これも神の力。生き物の動きを操ることができる」
何故こんな目に遭っているのか理解できなくてパニックになるが、男の指が素肌へと触れたその瞬間……鋭い愉悦に体が震え、意識が混濁 しはじめる。
「舌をだしてごらん」
命じる声に勝手に体が反応し、彼の指先で口腔内を少しの間なぶられただけで、自身が熱を帯びていくのが分かるから……絶望的な気持ちになった。
そこからの記憶は曖昧で途切れ途切れなものになったが、全裸にされ、脚を開かされ性器を口で愛撫され、後孔内へと指を入れられて何度も絶頂に導かれた。
『気に入ったよ。ハルとやりあうつもりはないから連れては行かないけど……また遊びにくる』
耳に残った男の言葉は残酷で……受け入れがたいものだったから、チカは首を左右へ振りながら逃げるように意識を手放した。
***
『千夏 、お前は逃げなさい』
『けど……お母さん』
『これを持って行きなさい。きっとあなたを護ってくれるはずだから』
手渡された銀のブレスレットには見覚えがあるような気がするが、今現在……チカの腕にははめられてはいなかった。
――どうして……忘れてた?
『お母さんも一緒に行こうよ!』
『千夏……分かってるよね』
笑みを浮かべる母の言葉に、涙を流している自分。
――そうだ……分かってた。お母さんは……お母さんには……。
『生きなさい』
全てが見えていた。
そして、あの時の母にチカの未来が見えていたように、チカにも母の未来が見えた。
――こんな力はいらない。
ひっそりと森の奥で二人、寄り添うように暮らしていた。
『そう。千夏にも見えるのね』
断片的な未来の映像を見ることができると分かったとき、少し悲しげな表情をして母はチカへと言い聞かせた。
自分の未来は見えないこと、自分たちが追われていること、そして――。
『千夏、いい? 見えたことを、他人に話してはダメ』
何度も言い聞かされた言葉に、この力は……全ての人間が持っているのではないと理解した。
母と自分ががどんな出自であるのかは、教えてもらうことができなかった。
なぜなら、チカが十二歳だったあの日、突如転機が訪れたからだ。
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