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第11話

「チカ、チカ」  服を脱がせたチカを抱いたまま浴槽へと入ったハルは、自らの服を力で消し去り、細い体を抱きしめる。  まるで反応は無かったが、少しすると白い肌へと朱が僅かに差したから、のぼせないうちに風呂から上がり、暖炉の側へと移動する。  柔らかな毛布で体を包み、腕に抱いたままラグへ寝そべると、呼吸も安定してきたから、ハルは安堵の息を漏らした。 「なにがあった?」  額へ手を当て問いかけるけれど、他の人間達とは違い、これまで一緒に暮らした中で、チカの記憶や思考が読めたことはない。  だから、チカの出自(しゅつじ)に見当はついたが、どういう経緯でここの来たのかは全くもって分からなかった。  瀕死のチカを家族にしたのが七年前。  その日のハルは屋敷で一人、激しい発情に耐えていた。なぜなら、結界を開き女を迎え入れることが、どうしてもできなかったのだ。  理由は今でも分からない。年に一度、神々の全てが一同に介す宴の場で、そのことを尋ねると、 『人間への愛をもって、彼らの生活を手助けするのが我々の仕事だ。ただ、発情に関しては、利害の一致というだけだから、きちんと仕事をしていれば、特に気にする必要はない。神といえどもその前に、感情のある生き物だからね』 と太陽神から言われたから、それ以来、気にすることなくハルは仕事に集中した。  ただ、神といえど発情時期には僅かながらに心が不安定になる。  常の状態であれば孤独など感じることもないけれど、この期間だけは常に一人を意識せずにはいられなかった。  伴侶を持つという概念はこの世界の神にはない。だが、獣などを眷族(けんぞく)として側に置く者が一定数存在するのは、自覚があるかは別として、温もりが欲しいと心のどこかで願っているからだろうか?

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