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第12話
『せめて、小さな猫でも……』
年をとるにつれ酷くなっていく発情に、思わず弱音を吐きだしたのは、生まれて初めてのことだった。
そしてその瞬間……自分の作った結界の中に異物が紛れ込むのを感じる。
『なんだ?』
動物ならば自由に往来 できるはずだから、結界が反応するのは神か人間、もしくは竜だと考えられた。
ただ、竜族は遠く離れた南の大陸に住んでいて、こちら側には干渉しない取り決めになっているはずだから、答えはおのずと神と人間に絞られる。
どちらにせよ、確かめなければならないから、ハルは重たい体を起こし、ベッドから降りてケープを羽織り、窓から外へと飛び出した。気配は泉のあたりからしたが、ハルならすぐに移動できる。
『……これは』
そして、降り立った泉のほとりで目にしたのは、今にも死にそうな少年と、壊れた銀のブレスレット。見たことのない種族だったが、見殺しにすることもできず、ハルは少年を抱き上げるとすぐさま屋敷へ連れ帰った。
***
――最初は言葉も知らなかった。
意識を現実へと戻し、腕の中にいるチカの額へとキスをしながら、ハルは再び過去の記憶へと思いを馳せる。
連れ帰った少年は、綺麗な黒髪を腰辺りまで伸ばしており、肌も透けるように白かったから、ハルはかなり驚いた。
なにせ、この大陸に暮らす人間は皆一様に褐色の肌をしているし、髪の毛の色もこれまで黒など一度も見たことがない。
唇だけがやけに朱く見え、ハルは内心ドキリとするが、浅い呼吸を繰り返す彼を見ているうち、そんな感情もすぐに消え去った。発情の途中だったというのに、それすらほどんど気にならない。
まず、体の悪い場所を調べたが、どこにも怪我はしていなかった。だから、とにかく冷えた体を暖め、意識を取り戻すまで賢明に看病した。
そして、数日がたち、ようやく目覚めた彼の瞳も、闇夜のように黒かった。
『綺麗だ』
思わず頬を手のひらで包み、のぞき込むように見つめると、はっきりとした怯 えの表情が浮かんだから……慌てて体を離したことを、今でもよく覚えている。
怪しいものではないと告げても言葉を理解していないようで、すぐに逃げようとした少年を、仕方なく力で押さえ込んだ。
だけど、途端にカタカタと震えだしたから、ハルはすっかり困り果てた。
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