12 / 24

第12話

『せめて、小さな猫でも……』  年をとるにつれ酷くなっていく発情に、思わず弱音を吐きだしたのは、生まれて初めてのことだった。  そしてその瞬間……自分の作った結界の中に異物が紛れ込むのを感じる。 『なんだ?』  動物ならば自由に往来(おうらい)できるはずだから、結界が反応するのは神か人間、もしくは竜だと考えられた。  ただ、竜族は遠く離れた南の大陸に住んでいて、こちら側には干渉しない取り決めになっているはずだから、答えはおのずと神と人間に絞られる。  どちらにせよ、確かめなければならないから、ハルは重たい体を起こし、ベッドから降りてケープを羽織り、窓から外へと飛び出した。気配は泉のあたりからしたが、ハルならすぐに移動できる。 『……これは』  そして、降り立った泉のほとりで目にしたのは、今にも死にそうな少年と、壊れた銀のブレスレット。見たことのない種族だったが、見殺しにすることもできず、ハルは少年を抱き上げるとすぐさま屋敷へ連れ帰った。  *** ――最初は言葉も知らなかった。  意識を現実へと戻し、腕の中にいるチカの額へとキスをしながら、ハルは再び過去の記憶へと思いを馳せる。  連れ帰った少年は、綺麗な黒髪を腰辺りまで伸ばしており、肌も透けるように白かったから、ハルはかなり驚いた。  なにせ、この大陸に暮らす人間は皆一様に褐色の肌をしているし、髪の毛の色もこれまで黒など一度も見たことがない。  唇だけがやけに朱く見え、ハルは内心ドキリとするが、浅い呼吸を繰り返す彼を見ているうち、そんな感情もすぐに消え去った。発情の途中だったというのに、それすらほどんど気にならない。  まず、体の悪い場所を調べたが、どこにも怪我はしていなかった。だから、とにかく冷えた体を暖め、意識を取り戻すまで賢明に看病した。  そして、数日がたち、ようやく目覚めた彼の瞳も、闇夜のように黒かった。 『綺麗だ』  思わず頬を手のひらで包み、のぞき込むように見つめると、はっきりとした(おび)えの表情が浮かんだから……慌てて体を離したことを、今でもよく覚えている。  怪しいものではないと告げても言葉を理解していないようで、すぐに逃げようとした少年を、仕方なく力で押さえ込んだ。  だけど、途端にカタカタと震えだしたから、ハルはすっかり困り果てた。

ともだちにシェアしよう!